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サウジアラビアにて (1)

 アバヤデビュー

2005年3月31日

 3月のある日、夫と生後9ヶ月の娘とともについにサウジアラビアにやってきた。 夫がこちらの王立のイスラム研究所の研究員として招待されたからだ。幸い、私もジャーナリストということで夫のお世話になる王立研究所の研究員として迎えてもらえることになった。

 サウジアラビアといえば、女性はアバヤという黒い服で全身を隠さなければならないし、女性の行動もかなり制限されているといわれ、出発前になぜそんなところへいくのかと何人もの人に怪訝そうな顔をされた。おまけに砂漠でとても暑い異国の地へ赤ちゃんをつれていくなんて、やっぱり無謀にみえるかもしれない。

 女性の美を公衆で見せないため、イスラムの国の女性達は外出するとき黒い布で身をつつんでいる場合が多い。しかし、その女性たちの姿が「イスラムの世界では女性を抑圧している」というイスラム圏以外の国でのイメージにつながっていることも否めない。

 サウジアラビアはその中でもワッハーブと言われる派で、もっとも戒律が厳しいと言われている国である。当然、女性にとっても厳しい制約がある。この国では、異教徒といえども、夫婦以外は男性と女性は公共の場では同じ場所にすわることもできないし、女性の一人歩きは禁止、車を運転することも禁止されている。街中にはムタワといわれる宗教警察がいて、禁止されていることをしようとすると、厳しく注意されたり時には警察をつれてきて逮捕されることもあるそうだ。

 しかし、そんなに厳しいといわれると、一体サウジアラビアの女性たちはどんな思いでどんな暮らしをしているのかとのぞいてみたくなる。

 空港につくとすぐにこちらに住んでいる友人がアバヤを持って待っていた。真っ黒のマントのようなものだが、模様も何もない黒い布で作られているのかとおもいきや、よくみると袖は黒のレースで縁取りがしてあり、ところどころに刺繍がある。おそろいのレースの縁取りのしてあるヘジャブ(頭からかぶるスカーフのようなもの)をかぶり、かろうじて身なりはととのった。アバヤの裾は足まですっぽり隠せるくらいの長さなので、気をつけて歩かないと自分のアバヤを踏んで転んでしまう。娘はまだ赤ちゃんなので、女であってもなにを着てもよいといわれた。

 聞くと、アバヤにも色々なデザインがあり、刺繍もさまざまだ。首都のリヤドはサウジアラビアの中でももっとも保守的と言われ、あまり華やかなアバヤには出会わないと聞いていたが、先日出会ったこちらの女子大生たちは実にさまざまなデザインの入ったアバヤを着ていて、とても華やかだった。

 「あらかわいい!」と大きなピンクの花の刺繍がしてあるアバヤとおそろいのヘジャブをしている女の子に声をかけると、隣にいた別の女の子が、「こっちも見て」というように自分の背中をこちらに向けた。彼女の背中にはカラフルで立派な龍の刺繍が入っていて、まるで刺青のようで驚いた。黒のアバヤで身を包まれているといっても彼女達なりにおしゃれを楽しんでいるようだ。

 アバヤ屋さんには、1000円ぐらいの手ごろなものから何万円もする高級なものまで、色々な種類があるらしい。中には宝石がついているものまであると聞いた。きっとお金持ちのサウジアラビアの奥様が着るのだろう。反対にあまり安いのを着ているとお手伝いさんなどの使用人に見られるようだ。外出するときは、中に何を着ていてもアバヤを脱がなければよいので(男性の前では脱ぐ機会はない)、友人によると急いでいるときは部屋着のままアバヤを羽織って外にでても大丈夫なのだそうだ。

 全身黒といっても、布は軽いし、意外と涼しい。砂漠の太陽は直接あたると暑いが、アバヤを着れば日よけにもなる。また、日本で着物を着たときにも思うのだが、身にまとうものがひらひらと足先までくると歩き方にも自然と注意するようになるし、なんだかエレガントに歩けるような気がするのは私だけであろうか。

 私は以前イランを訪問したことがあるが、イランでもやはり女性達はチャドルという黒のマントのようなもので全身を覆っていた。イランでは足の先まで素肌を絶対に見せてはいけないということで、暑いのに靴下をはいてからサンダルを履いていた。

 しかし、こちらの人は、素足でもOKのようだ。素足にサンダルであればだいぶ涼しい。おまけにオフィスに行っても足まですっぽり隠れているので、サンダルでうろうろしても違和感がないので、なかなか便利だ。

 イランでは、女性に課せられたさまざまの規制の厳しさに嫌気がさしたが、イラン人は口々に、「この国はサウジアラビアよりましだよ。サウジアラビアは、女性は一人で外にでられないし、運転をする自由もないんだから」と言ってた。

 確かにこちらの女性は、アバヤで身体を隠し、ヘジャブで髪の毛を隠し、正式には、顔まで黒のマスクのようなもので隠している。外を歩いていてみかけるほとんどの女性は、目の部分しかだしていないかベールで顔全体をおおっているかのどちらかなので、どんな顔をしているのかは、彼女達の大きなパッチリとした目からしか判断するほかはない。さながら、町中が仮面舞踏会のような雰囲気だ。

 ただ、外国人にはそこまできびしくなく、髪の毛を隠さないと髪を隠せと宗教警察に怒鳴られるくらいで、顔を隠している人はほとんどいない。

 さて、そんなサウジアラビアだが、はたして本当にこの国の女性たちは抑圧されていて住みづらいと感じているのだろうか?

 こちらは男女が公共の場で同席することが禁止されているので、レストランに入るときは、女性は家族専用の入り口から入り、奥の壁で囲まれた家族専用のセクションにとおされ、外から見られることはない。表側の誰からでも見られる席には、クーフィアと言われる布を頭からかぶりトーブと言われる白いアラブの衣装を身にまとった男性がずらりとならび、アラビアの不思議な雰囲気をかもしだしている。

 我々のいる王立研究所の目の前にスターバックスがあるのだが、そこも男女入り口が別になっている。

 しかし、アバヤのお店やショッピングセンターの中では女性専用フロア-があるところもあり、そこは男子禁制で、女性達が自由にショッピングを楽しんでいるという。また、博物館や動物園などには、女性デー、男性デーとファミリーデーが別にあって、女性デーには男性は入れない。

 どうもこの国には、男性が入れない女の園がたくさんありそうだし、その中で女性達は彼女達だけの生活を楽しんでいるようでもある。これから、色々と探索しがいがありそうだ。



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