上海市では、最近マンションが作り過ぎで売れないので、売れ行きを上げるため、マンションを買った人は、もれなく上海市の戸籍(正式居住権)をあげます、というキャンペーンを始めることにした。
中国では、遠く離れた場所への引っ越しが非常に難しい。都市への人口流入を制限する規則が毛沢東の時代に作られ、大都市に外部から戸籍を移すことが、ほとんどできない。有力者にコネがない限り、農村生まれの一般の人々にとって、都市に合法的に引っ越す方法は、人口の4%(うろ覚え)しか入れない大学に入学し、卒業することぐらいしかない。大学卒業生には大学のある都市の戸籍が与えられ、その町で就職先を斡旋される。
80年代に改革開放政策が始まり、民間企業の食堂などが作られるまでは、食堂の多くは公営で、お金のほかに「食糧券(糧票)」がないと食事ができなかった。だから、農村から都市へ、またはある都市から別の町に、勝手に行っても食事すらできなかった。今では食堂のほとんどは民間で、食糧券も廃止されたから、勝手に行っても食うには困らない。宿屋も身分証明書の提示だけで泊まれる。だが、そうやって都市に勝手に引っ越しても、子供を学校に行かせることはできないし、家も借りられないから、親戚のところに身を寄せるぐらいしかできない。
こうした制限があるので、中国の農村に住んでいる人々にとって、上海など大都市の居住権はぜひとも欲しいものの一つだ。上海市はそこに目を付けた。中国の役所はオールマイティなのである。
上海だけでなく、中国沿海部の大都市では最近、不動産が売れなくて困っている。改革開放でこれからは住宅もオフィスも足りなくなる、との読みから、1990年代前半には、バブル経済の時代の日本と同様、大都市の至る所で建設ラッシュが起きていた。それを見た日本の企業幹部やマスコミは「中国経済はすごい」と大賞賛していたものだ。
だが、93年の金融引き締めをきっかけに、中国でもバブル崩壊が起きた。上海が誇る国際金融センター候補地、浦東地区では、テナントの4割(うろ覚え)が埋まっていない。広東省などでは、完成したものの誰も入らず、廃墟のようになって封鎖されているビルも目立つ。
こうした状況を打開するため、「中国経済のドン」とも呼ばれる朱容基副総理が最近、発したのが「上海から率先し、不動産市況を回復させよ」という号令だった。その命令に対応して上海市が考えたのが、マンションに戸籍をつけて売るということだった。
上海では、あまり交通の便が良くない地域の高層マンションが、1平方メートルあたり4000元(5万円)前後からの値段で売られている。1世帯あたり50平方メートルとして250万円程度からとなる。上海で国内企業に勤めている人の月給は良くても2−3万円というところだから、一般の人に買えるものではない。とはいえ、上海のような大都市に住む人々の多くは、たとえ国営企業の職員であっても副収入を得るアルバイトなどをしているので、収入構造は一筋縄ではないのだが。(関連記事「半失業続く中国の国営企業従業員 96/07/25 」を参照)
一方、上海市は市役所の職員の採用試験も、上海に戸籍を持っているかどうかを問わないことにした。農村出身でも、上海に住んでいて能力がある人ならば、採用するという考え。戸籍制度は少しずつ自由化されているといえる。
この文章は「明報」7月10日付、「星島日報」7月19日付の記事を参考にした。