半失業続く中国の国営企業従業員 96/07/25

 中国の都市労働者1億5000万人の7−8割を占める国営企業の従業員の多くが、半失業状態を続けている。
 中国に30万社ある国営企業は、工業生産の約半分を作り出しているが、海外製品の市場参入と、社会主義市場経済システムが抱える構造的な矛盾から行き詰まっているところが多い。中国政府の発表によれば、今年上半期には約45%の企業が赤字となり、国営企業全体の損益合計が赤字となった。全体の累積赤字は1000億元(1兆2000億円)を超え、、政府は毎年、国家予算の約3分の1を国営企業対策にあてている。

 中国の国営企業は、大手になると従業員のための病院、学校、映画館などを併設する企業城下町を運営し、従業員と家族の人生全体を世話している。また1980年代後半に改革開放政策が本格化するまでは、独立した企業ではなく国家の一部門で、生産や投資は中央政府が作った計画に基づいて行われていた。従業員の意識は、利益を目標とした欧米企業の社員とは異なり、日本でいえば役人の意識に近いものがある。

◆進む工場幹部の腐敗
 改革開放政策が始まると、北京政府は国営企業を中央からコントロールする度合を低め、企業が独立経営するよう求めた。だが、上からの命令どおりに企業を運営していた幹部や従業員の意識は変えられず、経営能力も低い。輸入品がなかった時代には、国営企業の製品でも買ってもらえたが、90年代に入り外資系企業の製品が市場にあふれるようになると、国営企業の収益は急速に悪化した。

 しかも逆に、上からの監視が弱まったことをきっかけに、急速に幹部の腐敗が進んだ。工場幹部が自分の会社を設立し、そこを通して原料の仕入れを行うように変えて私腹を肥やしたり、会議や出張、交際費などの費用が急増したりした。

 国営企業の経営難の根本的な原因は、幹部や従業員が自覚できないまま、自主経営体制になってしまったことで、それは「社会主義市場経済」という、矛盾を含んだ体制を続けていることからきている。

◆国営企業を見放せば政権が崩壊
 政府は89年ごろから国営企業の再建に取り組んだが、成果はあがらず、国家財政からの赤字補填が増えつづけた。金融政策が引き締められた93年には、短期資金の調達ができず、従業員に賃金を支払えない倒産状態の企業が続出し、政府は赤字国債を増発して資金供給しなければならなかった。

 政府としては、国営企業を早く自立させ、行き詰まった企業を倒産させて、国家財政の負担を減らしたいところ。だが国家的な失業保険や社会保障の制度がない中国では、国営企業が国家に代わりこうした役割を担ってきただけに、政府が国営企業への資金援助をやめた場合、従業員と家族を含めた都市在住の数億人が、生活に困ることになってしまう。そうなると暴動が起き、共産党政権が崩壊する可能性すらある。

◆広がる二束のわらじ主義
 一方、失業の危機に瀕している一般従業員にも「対策」はある。自分の会社が開店休業状態で、出勤しなくても誰も文句を言わないことを利用して、会社に行かず、繁華街に自分の店を出して商売をするなど、「二束のわらじ」をはき出す人が増えたのである。会社からもらう給料よりはるかに多い収入を得る人が出てきており、副業を手掛けていない人との収入の格差が急に開いてしまった。

 経営を建て直すため、外資系企業の力を借りて、経営効率化を進めようとする国営企業もある。だが、労働者は洋の東西を問わず、労働強化や首切りには絶対に反対だ。そのため、国営企業の比率が高く、広東や上海のように個人の副業もあまり多くない東北地方(旧満州)を中心に、あちこちの国営企業でストライキが発生している。政府も「社会主義国」の看板を出している以上、従業員の声を無視した合理化を進めるのは難しい。

 解決困難な中国の国営企業問題であるが、日本の金融業界の不良債権よりはるかに重大な問題だとは思えない。中国は年率10%前後の高度経済成長を続けており、高度成長期が終わってしまった日本に比べ、償却力が強いからである。国営企業問題が完全に解決した時、日本にとって中国は経済的に脅威となっているに違いない。

 なお、この文章は香港の新聞「星島日報」7月12日、21日付、「明報」6月22日付の記事などを参考にした。