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大門小百合のハーバード日記(12)

女性と政治

2001年1月5日

 1月3日に召集されたアメリカ第107回議会のニュースの主役はもちろんヒラリー・クリントンだった。そういえば日本の衆議院選挙あとの国会初登庁のニュースみたいだ。

 テレビをボーっとみていたら女性上院議員は100人中13人で、史上最高の数になったとのこと。ちなみに下院は男性は375人で女性は59人だそうだ。私はアメリカのことだから、もっと女性議員の数は多いのかと今まで思っていた。

 アメリカという国は、意外と進んでいるようで進んでいない。ハーバード大学も1975年まで、女性の入学に制限が設けられていたという。ハーバードの隣に女性の名門校ラドクリフ・カレッジがあって、女性の優秀な生徒はみんなそこに通い、ハーバードの大学の教授が出張して彼女達を教えに来ていたというから驚きだ。1999年やっとハーバード大学とラドクリフが合併し、めでたく一つの大学となった。

 今回ヒラリー・クリントンは色々な意味でも注目の的だった。彼女の場合、彼女を好きと言う人と嫌いと言う人とはっきり2つに分かれるのだそうだ。シャープで夫の政策にも口を出す。あまりそういうタイプのファーストレディはいなかったので、嫌悪感を持つ人、尊敬の念を持つ人さまざまなのだろう。もちろん過去には影で大統領を支え、その意味で大統領としての政策に影響していたファーストレディもいたのだとは思う。

 昨年、ケネディ大統領の補佐官を長年つとめていたテッド・ソーレンソン氏に話を聞く機会があった。夫人のジャックリーン・ケネディはどんなことをしていたかという質問に彼はホワイトハウスのディナーをしきり、インテリアを変え、芸術の啓蒙にも貢献したが、政治には口を出さなかったといっていた。私が聞いた別の話ではケネディは大統領選前に出版した本でピューリッツアー賞を受賞したが、この本はジャックリーンのアイデアだといわれているし、出版や校正等も彼女が仕切ったといわれ、ケネディは実際には執筆していないともいわれている。残念ながら事の真偽はソーレンソン氏には確認できなかった。

 ところでヒラリー・クリントンが注目されるのは2004年に大統領選挙を控え、彼女が民主党の有力な候補者として浮上する可能性があるからだ。今のところ民主党の関係者は彼女が大統領選に出場する可能性については否定的だが、もし出馬し、当選すれば米国初の女性大統領だ。彼女の本の出版もその前に予定されていて選挙対策では?と憶測を呼んでいる。いずれにしても彼女の上院議員としての仕事ぶりが後の運命を決めるのだと思う。

 ブッシュ新政権の国家安全保障問題担当の大統領補佐官にコンドリーサ・ライス氏がなった。女性であり黒人であるというダブルハンデを見事に克服しての抜擢だ。彼女はスタンフォード大学の教授で父親の方のブッシュ大統領のもとで外交のアドバイザーをやっていて、ロシア専門家だ。

 そして、もう一人驚かされたのが夫のかわりにミズーリ州の上院議員に選ばれたジーン・カナハンだ。彼女の夫のメル・カナハン氏はミズーリ州の民主党系の知事で選挙の直前に飛行機事故で亡くなり、再選をめざす対抗馬のジョン・アシュクラフト上院議員も、その直後に選挙活動をするのは不謹慎だからとしばらく活動を控えていた。民主党が新しい候補者を立てるには手続き的に遅すぎるので、アシュクラフトは彼の勝利が確保されたと思ったらしい。ところが選挙ではなんと死んだはずのカナハン氏への票が伸び、アシュクラフトは敗北。州によっても異なるらしいが、ミズーリ州の法律ではではこのように死者が当選した場合、現知事が未亡人の夫人を代理の議員として任命できるとある。

 死んだ夫の代りに選挙もしていない未亡人が上院議員になった。アメリカは本当に驚かせてくれる。そんなことってあり?の世界だ。これまた州における知事の権限を見せ付けられた一幕である。

 日本でも政界への女性進出が叫ばれ、アメリカの民主党がはじめたエミリーズ・リスト(有能な女性に選挙資金援助をする団体)にならって、 WINWINという団体が1999年に設立された。会の運営者は日本で活躍する女性達だ。企業の社長、政治家、学者などだ。彼女達いわく、女性は支持基盤がうすく、金も組織もない。そんな女性達は選挙では弱いので、すこしでも多くの女性議員が出られるようにささやかながら寄付を募り、これぞと思った候補者に献金する。そんな努力もあってか昨年の総選挙後は、女性衆議院議員の数は35人になった。

 女性は長い間、政治や企業の中心から遠ざけられていたおかげで権力の腐敗から遠いし、今までのしがらみもない。そんなWINWINの主張はある意味であたっているのかもしれない。どんな人でも長くやりすぎると癒着につながる。組織もシステムも新しい風を送りつづけないと腐敗する。もちろん女性だからといって、すべての人がピュアでクリーンだというわけではないが・・・

 進んでいるといわれていたアメリカも実はやっと2001年に入り、女性パワーに拍車がかかってきたという感じだ。

 そんなことを考えていたら、ニューハンプシャーからきていたクリスマスカードのことを思い出した。10月に私がはじめて民主党の選挙活動を1日体験させてもらったとき、一緒に活動させてもらったメアリー・アンドスカさんからだった。(大門小百合のハーバード日記・白熱する大統領選挙参照)彼女はニューハンプシャーの州議会議員に立候補していて選挙活動中だった。

 こちらもあの後彼女はどうしただろうと気になってはいたのだが、州レベルの選挙結果まで調べるのも結構大変だったので、そのうち・・・と思っていたら、時間がたってしまった。

 クリスマスカードには「Sayuri。私の選挙区でなんとトップ当選しました。ありがとう。1月3日に宣誓して正式に議員になります」と書いてあった。そうか、彼女も当選したのか。肝っ玉お母さん風の地域活動を一生懸命している普通の主婦の人だった。

 これから彼女もどんな女性パワーを政治のなかで発揮してくれることだろう。2001年には女性の私にとって楽しみな年になりそうだ。



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