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大門小百合のハーバード日記(13)

ワシントンのエリートたち

2001年1月23日

 先週ワシントンDCに行ってきた。大統領就任式のためだ。ニーマン財団がフェローのためにこの4年に1度の大イベントを見学させようワシントン行きを計画してくれたからだ。

 私はみんなより一足早くワシントンに到着したので、町に早速繰り出すと、町は大統領就任式の準備でおおわらわだった。どのホテルも満室状態。大統領のパレードが行われるペンシルバニア通りの脇には観客が座れるように仮設の階段スタンドが立てられていた。

 日本大使館にいる知り合いの外交官の方にも会いに行ったら、彼らもおおわらわ。なんでも日本から国会議員が結構来るのだそうだ。山崎拓氏、中山太郎氏、そして野田聖子氏や小渕優子氏。後で韓国から来たニーマンフェローと話をしていたら、韓国からは総勢100人ぐらいの政治家とその関係者がワシントン入りをしたそうだ。日本よりも韓国はうわてであった。いずれにしてもこれだけ競争率が高いと新政権の幹部と会うのも容易なことではないだろう。

 こちらに駐在している知り合いの経団連の方と新聞記者とあるステーキレストランで夕食をとっていたら、テレビで見たことのある顔がレストランに入ってきた。先日ハーバードにもいらっしゃった民主党のビル・デーリー前商務長官と副大統領候補だったジョー・リーバーマン、前USTR代表のシャーレーン・バシェフスキーそして彼女の前任者のミッキー・カンター(数年前、当時の橋本龍太郎通産大臣と日米自動車交渉でやりあった人だ)。続々と民主党の幹部が入って来た。もしかして生でゴア前副大統領も見られるかもしれないと一瞬期待したが、残念ながら現れなかった。大統領就任式前のお疲れさま会なのか今後の政権奪回にむけての戦略をねるための会合だったのか?

▼ワシントンは競争社会

 いずれにしてもワシントンならではの体験をさせていただいた。みると店の中には他のアメリカではあまり見られない男性同士の客が多い。食事をしながらの商談だろうか。もうご存知の人は多いと思うが、ワシントンでこのような食事をとりながらの会議や商談はパワーディナーやランチといわれている。最近はディナーと言うより、パワーブレックファースト(朝食)やランチの方が主流らしいが・・・

 ワシントンは競争社会だ。ここで生きていくにはストレスもたまるし、日本人がワシントンの偉い人とパワーランチにこぎつけるのも大変らしい。国会議員に会うことはおろか、秘書と話すのもひと苦労。お互い限られた時間内で仕事をこなすため、当然面会する人や会議の順番にも優先順位がつけられるからだ。以前ワシントンの大使館で働いていた人が話していたが、日本の外交官といったって、ワシントンの政治家にとってメリットがなければ電話を取り次いでももらえないし、留守電にメッセージをいれてもまず折り返し電話がかかってくることはないといっていた。

 その話をしていたら、経団連の方も、まったくその通りとおっしゃっていた。アポをとるのも彼らのメリットを強調しないと駄目。政治家だけではなく、弁護士もロビーイストに対してもそうだ。彼らも心臓が強くないとワシントンでは生き残れないので、厳しい取捨選択をしている。ところが相談する方にとっては大変だ。この経団連の方いわく、この間も電話でほんの5−6分程ある法律の件で質問したら、その弁護士事務所から200ドルの請求書が送られてきたとか。弁護士たちの時間の単位は30分ごとなので、30分間の料金を請求されたらしい。

 押しの強さや自分の手柄を主張するのは日本人にとって一番苦手とするところだと思うが、ワシントンで生活しているエリートと渡り合っていくにはそれなりの心の準備が必要なのかもしれない。

 もう一つエリートといえば、ホワイトハウスの記者たちだ。記者はエリートか?と思われるかもしれないが、近年ではどうもそうらしい。昔は記者といえば高卒で間違ってもエリートとよべる部類ではなかった。ところが最近ではニューヨークタイムズやワシントンポスト、三大ネットワークテレビなどに入るには東部のエリート学校を出ていないと難しい。それから二世記者とでもいうのだろうか、昔の名物記者の息子や娘が記者になるというケースも多いという。彼らの間でも壮絶な戦いが繰り広げられる。

▼エリート大統領

 さて、就任式当日のパレードはすごい人ではあったが、雨のなかがんばって、外の特設スタンドの上で見ることができた。私のまん前にはすごい数のデモ隊だ。こんなデモ隊が就任式の日に出たのは近年では、ベトナム戦争以来初めてのことだそうだ。あの選挙のやり方がアメリカ国民に落とした影は大きい。もしかしたら、デモ隊が警察隊のバリケードを突破するのではと一瞬思ったが事無きを終え、ブッシュ大統領が無事誕生した。

 ところでそのブッシュ大統領だが、彼ははたしてエリートだろうか?

 テキサスの田舎出身とはいえ、東部のエリート高校を出、エール大学、ハーバードビジネススクールとくればエリートだ。おまけにおじいさんにさかのぼる政治家一家の出身だ。

 アメリカでは不思議なことに日本で起こるような「政治家の二世はよろしくない」という議論があまり聞かれない。今までの大統領はニクソンとクリントンを除けば、みんなよいところのお坊ちゃんで血筋もしっかりしているともいわれている。

 私のハーバードの政治学の先生が、アメリカの大統領とはDemocratic King(民主的な王様)だといっていた。アメリカには王朝にあたるものがない。だから、王様にあこがれ、ケネディにあこがれ、二世議員にもアレルギーがないということだろうか。労働者階級の多いといわれる民主党の支持者ですら、あのエリートを非常に感じさせてくれるゴアを選んだ事を考えても、日本のようにアレルギーがあるとは思えない。アメリカ国民は強いリーダーに期待を託し、その人がきちんと国のために仕事をしてくれるのなら、二世といって目くじらを立てる必要もないと思っているのかもしれない。

 とにかく、アメリカ政治の中心であるワシントンは、大統領を頂点にして超エリート達によって動かされているのである。



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