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大門小百合の東京日記(4)

テロについて思うこと

2001年9月29日

 今回のアメリカでのテロ事件をふりかえると心に浮かぶことが三つ。一つは記者として何がおこっているのか把握しようとしていた自分。二つ目は純粋にアメリカにいる友人たちのこと。そして、三つ目は確実に長期戦争に向かっているとしか思えないアメリカへの心配だ。

 正直いって、事件が発生してからしばらくは仕事以外のことは考えられなかった。当日私は、まさに仕事を終え帰宅しようとしていたところだった。10時ごろ通信社からの一報が入り、編集局中急いでCNNテレビに見入る。一体どの型の飛行機がワールドトレードセンターに激突したのか、その場合死傷者は何人出た可能性があるかなどと調べようとばたばたしているうちに、テレビのスクリーンに飛行機が建物に激突したシーンが映し出された。「何?今のはリプレイか?」と聞くと「違う!もう一機つっこんだらしい」という答えが返ってきた。そして、あれよあれよという間にペンタゴンから火があがり、飛行機がもう一機キャンプデービッドに向かっているという情報が流れてきた。これはただの事故ではない。事態を把握しようとして、記者にも電話を掛けまくり官邸や防衛庁に急行させる。

 外電もどんどん情報を送ってきていた。そして、貿易センタービルの一つが崩壊、そしてもう一つも。あまりの鮮明な映像ととりとめもない規模の破壊に背筋がぞっとした。うちのスタッフはアメリカ人も多い。NY出身の人もいた。身内の安否確認と仕事とで電話も鳴り響く。アメリカ大使館からもアメリカ人は身の回りの安全に注意してくださいとのファクスも流れてきた。そんな光景を横目に私は、新聞にとにかくできるだけの情報を突っ込むことを考えていた夜だった。

アメリカの友人たち

 しかし、夜中にぐったりして家に帰ってくると、ハーバードで一緒に授業をとっていた友人からeメールが届いていた。メールのタイトルは「I was not on the flight」 急いであけてみると、彼女はまさにボストンからあのハイジャックされたアメリカン航空のボストン発LA行きの便を予約していたが、直前にキャンセルをしたとのことだった。彼女の友人はそのまま飛行機にのった。自分は助かってほっとしているが、今、深い悲しみに包まれていると。なんともいえない暗い気分になった。そうだ、NYの友人たちはだいじょうぶだろうかと急に頭に色々な人のことが浮かぶ。そして急いでメールを打った。

「この世の終わりのような風景だった」と近くで働いていた日本人の友人からeメールが返ってきた。貿易センタービルのすぐ横のビルで働いていた別の友人も、以前から設置されていたガスマスクをつけて、ビルの階段を降りて逃げたらしい。ガスマスクが用意されているということからも、アメリカはいずれくるであろうテロを十分意識していたことがうかがわれる。

 ニーマンフェローだった友人たちからもメールが届き始めた。ワシントンポストで働いていた友人もニアミスで助かった。毎日あの時間ちょうどペンタゴンの横を通って出勤する。

 それらのメールからは、どこにいっても星条旗が掲げられ、町のあちこちでキャンドルを持って亡くなった方を追悼する集会が開かれている様子が伝わってきた。死をいたみアメリカが一つになっているという光景は美しいのかもしれないが、生まれて初めてこんなナショナリズムの高揚を目の当たりにして、ある意味で恐ろしく感じているとのことだった。

 ここ数週間は同じく記者たちであるニーマンフェローにとって、悲しみと仕事とに忙殺された毎日だったようである。フロリダのカメラマンは、ほとんどずっとマイアミ空港に住みこんでいたような毎日だったという。空港が閉鎖されたはずなのに、ある荷物が発見され、大騒ぎになって中をあけてみるとアラビア語の書類が出てきたとか、爆弾テロの脅迫があったとか。アメリカ人が気が気ではない毎日を送っているのがわかる。

 そしてボスニアの記者でイスラム教徒の記者からは、「イスラムのイマームが学校で何を根拠にテロがビン・ラディンの仕業というのかわからない。仮にそうだとしてもイスラム教徒は世界中で迫害されているので、その行動は正しかった」と子供たちに教えていたという。宗教の対立というのがいかにばかげているものか、ついこの間まで自国が戦場となっていたボスニアの人々が一番理解しているはずなのに・・・彼は憤慨し、その事実を論説で書いたが、イスラム教徒たちからかなりの非難を浴びたという。とはいえ、アメリカ大使館の前にはたくさんの花が献花され、一般のボスニアの人たちもそんな激しい感情の人ばかりではないとも言っていたが・・・

アメリカはどこへむかうか

 世界は今不思議な方向へ向かっていると思う。アメリカの敵と見られていたイランやパキスタン、そしてキューバまで、アメリカは協力を要請した。中国もアメリカとの関係改善に向かっている。日本国政府は、世界の動きに取り残されまいと、必死に協力の道を探り、今度は自衛隊を派遣するとはりきっている。とはいえ、世界の人々がアメリカのこの報復戦争を望んでいるかというと疑問だ。世界31カ国でGallop Pollが9月17日から19日かけて行った世論調査によると、イスラエルとアメリカ以外の国の大多数の国民はアメリカの報復攻撃に反対しているという結果がでた。それによるとヨーロッパ人の80パーセント、南アメリカ人の90パーセントが、テロリストの引渡しと、司法での決着を望んでいるらしい。

 日本はこの調査の対象にはなっていなかったのだが、私は今回日本人のなかにずいぶん平和主義が染みついているとあらためて驚いた。一連の報道、そして、インターネットの書き込みやeメールで回ってくる数々の意見を見ると、事態を意外と冷静にみている日本人が多いと思う。もちろんテロは絶対に許されることではないが、では、アフガニスタンを爆撃して根こそぎやっつけろという人は少ない。むしろこれから増え続けるであろうアフガニスタン難民を思いやる人、世界的戦争に発展することを危惧する人などが結構いる。

 日本人の感じ方が、軍人を英雄としてたたえあげるアメリカ人の考え方と根本的に違ってくるのはやむをえないと思う。半世紀前に作られた平和憲法の存在や唯一の被爆国ということも大きく影響しているのかもしれない。危険をおかしてまでも国のために戦おうという精神はアメリカには確実に生きている。日本は逆だ。でもそのかわり、反戦という精神に関しては知らないうちにピカいちの国になっていたのではないだろうか。

 今回の件でアメリカ国内でのブッシュ支持が、湾岸戦争のお父さんの時以上に、急激に上昇し90パーセントに達した。かなり民主党の間でも問題視されていたMNDの予算も、あっという間に議会で通ってしまった。

そんな状態でもう一つ気がかりなのは、アメリカのマスコミがこれからどこまで正確な情報を伝えていけるのかだ。戦争下においては、真実は報道されにくくなる。湾岸戦争の時油まみれになった水鳥の話がよく引用されるが、マスコミに対する規制はひどかったとアメリカのカメラマンで湾岸戦争を取材した友人は言う。レーガン時代のイランコントラ事件の時もそうだった。情報はすべてホワイトハウス、FBI、CIAが持っている。戦争状態だと宣言しているアメリカでは特に情報管理が今後きびしくなっていくと思われる。

 私もハーバード大学留学中は外交政策の授業で、政策担当者になったつもりで非常時のシュミレーションなどを何度かやった。しかしその時きまって議論されるのは、どうすればマスコミに気づかれずにオペレーションを遂行することができるかということだった。

長期化せざろうえない戦争で、私たちはどこまで冷静さを失わずに情報を分析し、今回の対応について考えていくことができるのだろう。



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