★ マズいカクテルにご用心!

先日、知り合い数人と当店閉店後、近所のバーへ行った(敵店と呼んでいる店)。普
段めったに人と飲みに行くことがないせいか、はたまたメンツが個性的で濃かったせ
いか、めちゃめちゃ楽しかった。

毎日店でお客様と疑似飲み会を繰り返しているので(僕は仕事中は飲まないが)、閉
店後は何の未練もなくすぐさま家に帰るのが習慣になっている。その後一人の時間を
満喫するのは僕にとって至福のひとときなのだけれど、たまには疑似でない飲みもい
いものだ。これからは機会を作って臆せずに時々飲みにいきたい。

僕は自分がカクテルを作る側なので、バーへ行くと何をオーダーしようか悩んでしま
う。どういうことかというと、僕にとっては自分で作るカクテルが最もバランスが良
く美味しいので、他店では飲みたいと思わないのだ。でも最初の1杯くらいはカクテ
ルを飲む。バーテンダーの力量を知るためだ。で、大したことがない味なら、2杯目
からはマール、グラッパ、フルーツブランデーあたりをロックで飲む。ボトルから注
ぐだけなら誰が注いでも味が変わらない。やっと安心してお酒を楽しめる。

この日の1杯目はジントニックを注文した。マイミクのお友達にはスティンガーを注
文してあげた。ジントニックは案の定ひでぇ味だった。どのジンを使っているのかわ
からない程少なめなうえ、少々炭酸の抜けた味気ないトニックウォーター(たぶんカ
ナダドライのもの)が入っている。冷え具合も足りない。バーテンダーのやる気や意
気込みの無さ、こだわりの欠如さが味わえる。嫌になる。従って2杯目はマールに逃
げた。3杯目はギネスに逃げた。逃げまくりである。

スティンガーを一口飲ませてもらう。マニュアル通りブランデー40ml、ホワイトミン
ト20mlを駄シェークした、甘ったるくバランスの悪い味わいだ。バーテンダーの考え
の甘ったるさがダイレクトに味わえる。腹が立つ。次のチャーリーチャップリンも、
アプリコット、スロージン、レモンジュースが三位一体とはほど遠い腑抜けな味わい。
その次のボストンクーラーはバランス云々以前の不味さだった。気分が悪い。

というわけで?はバーへ行くと楽しめない。サービスの姿勢に腹が立つ&カクテル
にむかつくダブルパンチを食らうため、ダメージが一段と大きい。立ち上がれなくな
る。

当店ではお客様のお好みを聞いてカクテルを作ることが多い。その時に苦手なお酒を
うかがうと、ジン、ラム、テキーラのどれかを言う方が多い。なぜ苦手なのかという
と多くの場合、他店で不味いカクテルを飲まされて、悪印象を持ってしまったのであ
る。それで自分には合わないと信じ込んでしまったのだ。

そんなお客様には普通、苦手な酒を使用しないのだが、相手の方によっては嫌いなベー
スのカクテルを好きにさせてみせます、と言って興味を持ってもらい、お客様の苦手
なお酒で勝負する。もちろんお口に合わない場合は作り直す。でも、大抵気に入って
下さり、嫌いだったお酒を好きになってもらえる。バランスの良い美味しいカクテル
を提供すれば、お客様の認識はすぐに変わるのだ。

どこのバーでもスタンダードカクテルがメニューに載っている。多くの方はスタンダー
ドカクテルはどこで飲んでも同じような味だと思っている。だから一度飲んで気に入
らなかったカクテルはもう二度と飲まない。この味は好きじゃない。そう記憶にすり
込まれてしまう。それが非常に残念だ。

僕はお客様が一度嫌いになったカクテルを好きになってもらえるように、おとしめら
れたカクテルの汚名を返上するために努力している。スタンダード中のスタンダード
でも美味しくないカクテルは存在するが、それでも作り方によってかなり良くなる。
だから多くの場合、カクテルが不味いのではなくバーテンダーが不味いのだというこ
とを、もっと多くの方に知ってほしい。美味しく感じなかったカクテルは、できれば
いくつかの店で飲み比べていただければ良いのだが、なかなかそんな気になる方はい
ないだろうなぁ。

力不足のバーテンダーのせいで、カクテルが間違った印象を持たれてしまうのは、本
当に悲しい。

                             (2006年2月28日)



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