■ 「 BAR MANが語るサービスの心 」<後半>

(前半の続き)

▼お客様に映る自分の姿を意識するということ

 普段、あまり他の人のサービスの良し悪しが気にならない人には、お客様が自分の
サービスに対してどのように思っているかを知ることは、難しいかもしれませんが、
多くのお客様は、私たちの仕事ぶりを、素知らぬ顔でじっくり観察しています。

 お客様は、この店はいったいどんな店なのか、品揃えはどうか、味や品質はどうか、
店員の態度はどうか、などを、おくびにも出さずにチェックをし、御自身にとってふ
さわしい店か、満足できる店か、再び利用したい店かどうかを判断しています。

 また、そこで働く人に対しても同様です。自分を特別なお客様という気持ちで応対
してくれているか。ていねいに対応してくれているか。感謝の気持ちを持ってくれて
いるか、など、様々なことを考えています。

 それをそうとは気づかずに、こちらが“素”の顔や声、またはそれに近い状態で、
薄れた緊張感で働いていたら、もしかするとお客様に「自分を大切にしてくれていな
い」と思われてしまうかもしれません。。場合によっては、まるでベルトコンベアー
で運ばれてきた“物”を、流れ作業でただ捌いているかのようだと、相手の方を不安
な気持ちにさせてしまうかもしれません。

 自分で注文したものや買った物の代金をお客が払うのは当たり前、別にこちらが必
要以上に気を使う必要は無い、と思う人や、人を傷つけても別に平気、関係ない、と
いう人だったら仕方ありませんが、多くの人は、自分は人の役に立ちたい、自分が接
することで、お客様に喜んでほしい、と考えていると思います。

 しかし、自分の立ち振る舞いや気配りのレベルが低かったり、もしくはやる気なく
働いていると、お客様に悪く思われてしまう危険性があります。悪く思われたという
ことは、すなわち自分のサービスによって、お客様の心を傷つけたということです。
傷つけておいてそのことに気づかないようでは、接客業失格ですが、現実には、この
ようなことが、あちらこちらで平然と繰り広げられています。

 ですから、いつでも「私はお客様に今どう思われているのだろうか」「納得してい
ただける接客を行っているだろうか」「素敵な接客に映っているだろうか」「気を抜
いてお客様を傷つけていないだろうか」と、厳しく自問自答しながら、いつも気を抜
かずに業務を行うことが大切です。
 
 もしお客様は私のことなど気にしていない、などと平然と思っていたとしたら、そ
れは大きな間違いです。自分があまり気にしないから人もそうだろうと、自分の価値
観で他の人を判断する考え方は大変危険です。自分より神経が細やかな人は、世の中
に大勢存在すると考えた方が、いつも緊張感を失わずに働くことができます。

 サービス低下は、お客様を甘く見たり、見下してしまう、その心の表れ、という場
合もあるでしょう。それは、自分の大好きな人や、とても大切に思っている人に対し
て、気を抜いたり、素っ気ない応対をしていないことからもわかります。

 多くのお客様は、自分を大切に扱ってほしい、とか、特別な人として接してほしい、
と思っています。そのお客様の一人一人に、自分の大切な人に接している時と同じよ
うに、真心を込めて接することができて、その気持ちが相手の方に十分伝わることが、
自分が本当に一生懸命働いている、ということだと思います。それを行うのが難しい
からこそ、日々の積み重ね、努力が大切ですし、それゆえに接客業は、大変やり甲斐
のある仕事なのだと思います。

 では次に、サービスの中で最も重要な、「決まり文句の発し方」について、お話し
したいと思います。


▼決まり文句の発し方

 毎日必ず使う言葉がたくさんあります。当店でいうと、

▽ いらっしゃいませ
▽ こんばんは
▽ 御案内いたします
▽ メニューでございます
▽ はい、かしこまりました
▽ お待たせいたしました
▽ 失礼いたします
▽ 大変失礼いたしました
▽ お会計4200円でございます
▽ ありがとうございます
▽ どうぞお気をつけて

といった感じで、30〜40ぐらいの決まり文句があると思います。この決まり文句
をどう言うかで、その店のサービスの良し悪しが決まります。これがサービスを行う
上で、最も重要で大切なことだと思います。

 お客様から何かを聞かれない限り、お客様への接客は、決まり文句だけで行われま
す。ですからお客様がこちらのサービスが良かったとか、悪かったとかの判断は、決
まり文句の感じが良かったか、悪かったかということになります。つまり多くの、決
まり文句だけで接客しているお客様には、決まり文句が良ければ、その店のサービス
は良い、と思ってもらえることになります。

 私はいつも、決まり文句を活き活きと言うことができるように、毎回、言うたびに
考えます。もちろん明るくハキハキ元気良く、というのは当たり前で、あとはお客様
の雰囲気を見て、この方にはどういう言い方が一番いいんだろう、とお客様の心に響
く言い方を考えます。

 例えば、早口の方には、きもち早めで。クールな方には、こちらもクールに。もの
凄く丁寧な方には、それに負けないように丁寧に。明るい方には、もっと明るく。お
年を召した方には、ゆっくりと、よりはきはきと。このような感じでお客様の言い方
に同調します。そうすると、流れが滞りなくスムーズになるので、お客様にストレス
が貯まりません。ここのサービス、気持ちがいいね、と思ってもらえます。

 お客様に同調するには、瞬間的な判断力、つまり勘の良さと耳の良さが必要です。
お客様の言葉に一瞬で、すぐに答えなければなりませんから、考えている暇はありま
せん。反応です。これは毎日毎日、毎回毎回、どう反応すればよいかを考えながら、
言わなければ習得できません。すると毎日飽きるほど使っている決まり文句を、漫然
と言っている暇がなくなります。つまり、決まり文句を考えながら言うため、言葉が
活き活きとしてきます。生きた言葉になるんです。

 もちろん同調だけが良いわけではありません。少しゆっくりめに笑顔ではきはき丁
寧に言うと、品が良くなり、高級感が出るので、当店へいらしたお客様をお迎えする
ときなどに使うと、良い店に来たかも、とお客様の期待感が増します。もしそのあと
がダメだと、反動で、期待はずれ感がとてつもなくアップしますので、手を抜く暇は
ありません。

 決まり文句を、毎回考えながら言ってもらうために、当店では従業員に次のように
話して教えています。「毎回考えながら言ってる人と、毎日考えずに言ってる君との
差はどうなる? どんどん開いていくだろう? できる人はどんどん自分で考える。
できない人はいつでも何も考えない。それじゃ、差は広がっていくばかりじゃないか。
いつでも考えて仕事をすれば、君だってどんどん成長できるんだ。どんどん考えて頑
張れ」と、やっぱり負荷をかけます。こんなことを言うと、めげてしまう人もいるか
と思いきや、案外みんなやる気を出して頑張ります。でも、あまり考えない人は、す
ぐまた元に戻っちゃうので、あなどれません(笑) で、また再教育です。

 ということで、次は、決まり文句をどのように言ったら良いのか、ということを具
体的にお話ししたいのですが、決まり文句を1つ1つ説明している時間もありません
ので、決まり文句の中でも最も重要な、挨拶と感謝の言葉、「いらっしゃいませ」
「ありがとうございます」、病院では「こんにちは」「どうぞお大事に」に当たる言
葉ですが、これに絞ってお話しいたします。挨拶がきちんとできれば、あとは他の決
まり文句に当てはめていけばいいんです。では挨拶についてお話しします。


▼お客様への挨拶
 
 毎日、いろんな店で「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」という言葉を
聞きます。道を歩いてても、あちこちの店内から聞こえてきます。しかし「ああこの
人の言い方は、とても気持ちがこもってて気分がいいなぁ」とか、「またぜひこの店
を利用しよう」と、おもわず嬉しくなってしまう、そんな素晴らしい挨拶にはなかな
か出会うことができません。

 「いらっしゃいませ」は「ようこそいらっしゃいました」とお客様の来店を歓迎す
る挨拶の言葉で、「ありがとうございます」は感謝の気持ちを表す言葉です。こんな
ことは私が説明するまでもなく、誰でも知っています。

 ではいったい、サービス業に従事する人々の中で、いったいどれほどの人が、歓迎
と感謝の気持ちを込めて言っているんでしょうか。残念ながら多くの人は、「毎日繰
り返し言わなければならない、仕事上の決まり文句」という程度にしか考えていない
ように思います。言葉を生かすも殺すも、それを発する人次第です。ただ何となく言っ
てると、その気持ちは、お客様の心にはなかなか響きません。

 より多くのお客様に納得していただけるサービスを提供するには、挨拶や礼の言葉
を、気を抜いて漫然と発したり、自分のレベルに甘んじているわけにはいきません。

 私は、せっかく言うのだから、きちんと生きた言葉にしたいので、お客様の心にこ
の気持ちを届けたいと、毎回願いを込めて言っています。意味の無いことはしたくな
いですし、意味あるものにするのなら、最大限に生かしたいと思っています。

 まれに店員さんから、素敵な笑顔で、とびきり素敵な「いらっしゃいませ」「あり
がとうございます」と言ってもらえると、嬉しくて心が躍ります。そして心が洗われ
たような、元気をもらったような、いい気分になります。良い挨拶、良い感謝の言葉っ
て何て素晴らしいんだろう、と思う瞬間です。

 そんな時、良い挨拶によって、私がこんなにいい気分になるんだから、私もお客様
一人一人にいつも感謝の心を込めて、その心が相手の心に伝わるように、さらに努力
しよう、と思います。

 では具体的にどういう言い方をすればいいか、私の考えをお話しします。

 良い挨拶と感謝の言葉の基本は「笑顔で、はきはきと、一生懸命言う」ということ
です。お客様に「笑顔で」こちらの心を開き、「はきはきと」敬意を表し、満足して
もらえることを願って「一生懸命」発する。これがサービス業の人にとって最も大切
なことです。これが自然に出来ればいいのですが、今まで行っていなかった人にとっ
ては、至難の業かもしれません。

 先日、あるサービスの本を立ち読みしていたら、こんなドキッとすることが書いて
ありました。かいつまんでお話しすると、

「爽やかな笑顔、優しい笑顔、爽やかな挨拶、優しい挨拶ができる人は限られていま
す。人によってできること、できないことは決まっています。スポーツ選手のほんの
一部の人しかプロ選手になれないように、笑顔や挨拶も同じです。爽やかな笑顔や爽
やかな挨拶ができない人は、それができるようにはなりません」

 すごいです。極論です。この人は、はっきりと言い切っていました。夢も希望もな
い言葉です。私はこの一文を、当店の、まだあまり良い笑顔や良い挨拶ができていな
い、と私が感じている従業員数人に話してみました。すると彼らは、「それひどいで
すね」とか「え〜そんな〜、できますよ〜」と、ちょっとショックを受けて怒ってい
ました。今度はとびきり良い挨拶をする者にも話してみると「それはそうかもしれな
いですね」と納得するような言い方でした。

 私の考えでは、良い笑顔選手権、良い挨拶オリンピックのようなものがあったら、
それに出場できる人は、ほんの一部の人に限られるとは思いますが、人の心に響く良
い挨拶や、人をホッとさせる爽やかな笑顔は、堅い決意と、絶え間なく日々、一生懸
命努力することによって出来るようになると、信じています。

●一生懸命とは?

 「一生懸命」とは『命がけで物事をすること。全力をあげて何かをするさま』とい
う意味です。普通に一生懸命と言うと、自分なりに頑張るというような意味あいです
が、本当の一生懸命は、こんなに激しい意味だったんですね。

 当店のアルバイトに「一生懸命働いてる?」と聞くと、大抵「そのつもりです」と
いう返事が返ってきます。でも彼らの言う一生懸命は、自分なりに自分の一生懸命を
行っている、という程度で、こちらから見ていて、それなりにしか見えません。お客
様にこちらの一生懸命が伝わらなければ、それは一生懸命働いていないのと同じです。
そんな人には例をあげて説明しています。

 「君が大好きな人、最も大切に想っている人が来てくれた時に言う挨拶や笑顔が、
君の心から湧き出た、本当に気持ちがこもった挨拶なんだよ。また、君が欲しくて欲
しくてたまらない物を、人からプレゼントされた時の笑顔と感謝の言葉。それが君の
本当の感謝の気持ちの表し方なんだよ。それと普段の言い方を比べて差があるとした
ら、そこが君が力を出し切っていない部分なんだ。一生懸命働くっていうのは、その
ギャップを埋めていくこと。どんなに懸命に働いてるつもりでも、いつも自分の働き
はそれなりなんだと考えて、常に励むことが大切だよ」 

というようなことを言います。この説明によって仕事ぶりが急激に変化することは、
もちろんありませんが、志の高い人はこの話を忘れないようにと励んで、成長しよう
と努めています。

●挨拶 次のステップ

 次のステップは、この基本をふまえて、笑顔、はきはき、一生懸命を細分化し、お
客様に合わせて様々に組み合わせてゆくことです。

 いま接しているお客様にはどんな笑顔がふさわしいのか。満面笑みなのか、爽やか
笑顔なのか、穏やか笑顔か、しなやか笑顔かなど、どれが合うのかを考えます。はき
はきは、大いにはきはきなのか、快活か、さりげなくか、など考えます。一生懸命も
同様に、剥き出しなのか、やや強調か、普通か、抑えめかを考えます。

 他にも「テンポ」は早めか、標準か、ゆっくりかとか、「どんな声」で発するのか、
喉を絞るのか開くのか、鼻にかけるのか、腹から出すのかなど、また「声のボリュー
ム」はどれくらいが適切か、「トーン」はどうか、などを吟味して、これこそがお客
様にピッタリだと思われる発し方を「常日頃から鍛えている勘」で決定し、そして絶
妙な「タイミング」を計って発するのです。

●良い勘とは?

 「常日頃から鍛えている勘」と書きましたが、これがとても重要です。以前、某ホ
テルチェーンのオーナーの、サービスについての講演を聞いたことがありますが、そ
の方が次のように言っていました。

「良いサービスを行うには、良い勘と笑顔、この2つがあれば何とかなります。しか
し、良い勘を持ち合わせていない人には、良いサービスを行うことができません。そ
ういう人はサービス業には向いていないので、すぐに辞めて下さい」

というものでした。この「辞めて下さい」と言うのはどうかと思いますが、確かに良
い勘と笑顔は、サービスを行う上で、なくてはならない最も重要なことだと思います。

 勘が良くなければ、お客様がこちらに何を求め、何を希望し、何を期待しているの
かを、察知することができません。勘が悪ければ、お客様の気持ちを察知できないば
かりか、相手の方の希望や期待とかけ離れたサービスを「これが良いはずだ」と断定
して平気で行い、お客様を不機嫌にさせたり、場合によっては怒らせてしまったりす
ることにつながります。

 しかし勘が悪いものですから、なぜお客様は気分を害してしまったのか、なぜ怒ら
せてしまったのか、がわからず、きっとあの人は怒りっぽい性格なんだろう、とか、
他に嫌なことがあったんでこちらに八つ当たりしたんだろう、と、悪い勘で見当違い
の答えを出すので、結局、自分自身をかえりみたり、何かを改善する、ということが
なされないまま、次にまた同じことを繰り返してしまうことになります。

 もっと勘が悪い人になると、お客様が気分を害しているのに、そのことにすら気が
つかなかったりします。これでは、その店には二度と来ていただけないばかりか、よ
そで「あそこはダメだ」と悪い噂を流されて、店の評判が下がってしまいます。

 私自身も不満を感じた店のことは、「あの店はダメだ」と他の人に話しますし、
「行くのは絶対やめた方がいい」と止めたりします。それがラーメン屋レベルの話な
ら、「あそこのラーメンは、これこれこういうふうにマズイから、ぜひ一度行って味
わってみて」と、冗談で人に勧めたりもしますが(笑)、バーやレストランなどは値
段が高いので「良くない」と聞いたら、その不満にとって変わる大きなメリットが他
に無い限り、その店には行きませんし、人に勧めることもありません。

 勘の話に戻りますが、勘が良い人は、いま自分がどう行動するのがベストなのかを
いくつもの選択肢から瞬時に選び出して選択、行動することができます。たとえその
行動がベターに過ぎなかったとしても、即反省して次回の精度アップにつなげること
ができます。

 一方、勘が悪い人は、いつも通り一遍のことしか行えず、判断が遅れがちでスムー
ズに事が運ばないばかりか、時にお客様に迷惑がかかったり、仕事全体の流れが悪く
なって、周囲のスタッフの仕事を増やしてばかりいます。また、指示された仕事は自
分勝手な判断で聞き間違え、簡単な仕事もなかなか習得できずに停滞しています。

 当店ではこういう人に、まず仕事には人によって向き不向きがあることを伝えます。
もし本気で励む気構えがあるのなら、それ以後ビシビシと鍛えます。それによって勘
が悪い人でも何とか育つ場合もあります。しかしこれは僕が厳しく教えるだけでは駄
目で、本人が自分の勘の悪さをはっきりと自覚して、絶え間ない努力を重ねることが
必要です。

●正しい挨拶の言い方

 次に挨拶の言い方と言葉の内容についてお話しします。

 店によって「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」の発し方は様々ですが、
「いらっしゃいませ〜」「ありがとうございま〜す」「ありがと〜ございました〜」
と伸ばす人がとても多い。アクセントも様々で、文章を読む際の普通の言い方から、
普段の会話では決して言わないような突拍子もない言い方まで、非常に幅広く、知性
を感じるものから、そうでないものまで、実にバラエティに富んでいる、と感じます。

 私自身は、特にバーでは言葉を伸ばしたりせずに言うのが、最も良いと考えていま
すが、業種によってふさわしい言い方は異なるでしょう。店によっては語尾を伸ばし
た方が良い場合があることは理解できますが、しかし漫然と伸ばしっ放しにしては、
だらしなく聞こえてしまいます。なぜ伸ばした方が良いのか、どのくらい伸ばすのが
適正かをきちんと把握した上で、その必然性が相手の方に伝わるような発し方をしな
ければなりません。

 当店では言葉を伸ばす発し方は一切禁止しています。それはなぜかというと、多く
の人は、プライベートタイムに人に感謝の気持ちを伝えるとき、目の前の相手には
「ありがとうございます」と言葉を伸ばさずに言っているからです。ですから私は、
自然な形を崩さずに発することが、相手の方に感謝の気持ちを伝える最も言い方だと
考えています。「いらっしゃいませ」に関しても同様です。

 言葉を伸ばさずに「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」ときちんと発す
るのはとても難しいです。よほど笑顔ではきはき一生懸命発しなければ、冷たい感じ、
暗い感じ、嫌な感じになりかねません。言葉を伸ばした場合のように、ごまかしが効
かないのです。余分な部分を排除した言葉に、きちんと感謝の気持ちを込めて発する
ことが出来れば、より多くのお客様に納得していただける可能性が高くなります。

●実際の言い方

 当店では次のように挨拶の言い方を指導しています。

1【口を横に開いてはっきりと挨拶する】
 これが当店の挨拶の基本中の基本です。口を横に開くと言葉をはっきりと発するこ
とが出来て、顔が自然に笑顔になって、優しい挨拶が出来ます。

2【自然に発音する】
 全く癖のない標準語で発音します。「いらっしゃいませ」の「せ」は伸ばさずに切
る。「ありがとうございます」も「ま〜す」と伸ばしません。また語尾はどちらもはっ
きりとは言い切らずに、フェイドアウトするように言います。このように極々自然に
発音するのが当店には相応しく、また綺麗な言い方だと思っています。

3【声の大きさに注意する】
 不必要に大きな声や、お客様に届かない小さな声ではいけません。お客様にちょう
ど良いと感じていただけるボリュームで挨拶をします。いたずらに大きな声は「決ま
り文句」や「従業員同士の合図」といった、他の思惑が見え隠れしているようにも聞
こえてしまいます。

4【喉を開いて、少し息を吐きながら声を出す】
 楽に声を出そうとすると、喉が若干閉じ気味になります。これだと優しい声が出し
にくいです。喉の筋肉を緩めて息をやや吐きながら挨拶すると、声に微妙な表情をつ
けやすいので、一本調子にならずに変化をつけることができます。また、地声そのま
まで発すると、声に表情が表れにくくなりますし、普段着ならぬ普段声では、お客様
に敬意を表しているようには聞こえません。お調子者のようによそ行き声でも困りま
すが、やや普段の喋りと変えて言うと、声にけじめが生まれます。

 挨拶や礼はその言葉を発する人を映し出す鏡です。発した言葉からは、その人の仕
事に対するやる気、心構え、サービスレベル、適性、はたまた性格、人間性、育ちな
ど、様々なデータが流れ出ます。これは自分より物事がわかっている人には簡単に悟
られてしまいます。

 私は挨拶によって、私より接客業を軽く考えている人のサービスに対する気持ちが、
手に取るようにわかりますし、逆に、私より遥かにサービスの何たるかを御存じのお
客様には、私の考えていることが全て読まれてしまう恐怖を感じています。ですから
自分の力を決して過信せずに日々懸命に働き、少しずつでも向上して、より多くのお
客様に納得していただける挨拶ができるように、努めなければならないと考えていま
す。

挨拶や礼は、サービス業に従事する人にとって最も重要な基本です。「基本「とは
「物事が成り立つためのよりどころとなるおおもと」という意味です。基本が出来ず
して基本の応用はありえません。つまり、挨拶や礼をきちんと発することが出来なけ
れば、優れたサービスは行えない、ということになります。向上を目指す時、いつも
基本に立ち返ることが、更なる発展のための秘訣なのではないかと、私は考えます。

                              
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                            (2005年10月7日)




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