タイ・社屋を燃やされたくなかったらボーナスを出せ
(96.12.28)
バンコクでは最近、不況で激減するはずだった年末のボーナスが、意外に多く出ている企業が多いという。タイは今、不動産バブルの崩壊や、需要を上回る設備投資を続けてきたツケが出て、かつてない厳しい不況にみまわれている。その中でなぜボーナスが削られなくなったか。答えは「三洋を見ろ」である。
三洋電機の現地法人「サンヨー・ユニバーサル・エレクトリック」では12月18日、ボーナスカットに怒った従業員が本社に放火し、社屋と倉庫が燃えてしまった。その直後から、タイ各地の企業では、ライターを手にした労働組合のメンバーから「サンヨーになりたくなかったら、ボーナスを出せ」と、本気とも冗談ともつかない態度で詰め寄られ、経営者は要求をある程度飲まざるをえなくなっている。
三洋だけではない。国営企業であるクルンタイ銀行では、バンコク市内の大半の支店で従業員がストライキに突入。台湾企業との合弁の電機メーカーでも、月給3ヶ月分のボーナスを求める従業員側に対して会社側は2ヶ月分を回答したところ、ストライキがおきた。だが放火事件の後、従業員は満額回答を得るに至った。
厳密にいうとタイでは、年末に支給されるお金は、企業の業績によって上下する「ボーナス」ではなく、給料の一部ととらえられている。それなしには年を越せないという性格のものらしい。タイでは食費こそ安いものの、自動車や不動産の価格に比べると賃金はかなり安いため、年末手当ては貴重な収入となっている。だから、それを大幅カットされた従業員が怒るのは当然かもしれない。これまでタイでは長いこと右肩上がりの経済成長を続けてきたので、年末手当てが減ることはなく、今回の混乱は労使双方にとって初めてのことだった。
タイ人はメンツを大切にするため、交渉の際も怒鳴ったりしない。その代わり、堪忍が限界を超えてかっとなると、頭の中が真っ白になってしまい、刃傷沙汰などのとんでもないことをしでかすことになる、と以前読んだ本に書いてあったのを思い出した。
(12月26日付、アジア版ウォールストリート・ジャーナル参考)
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