最近の世界の流れ 97年2月17日



・雁行型発展をした東アジアは、金融危機も雁行型
・北朝鮮の亡命事件を機に朝鮮半島和平のヘゲモニー握りたい中国
・アンソン・チャン女史は香港の自由度を判断するカナリヤかも
・タイの通貨バーツが危ない
・フィリピンのラモス大統領、いよいよ改憲に動き出すか
・インドネシア大金鉱をめぐる政治騒動のどんでん返し
・朝日、毎日は日本共産党とつながっている?
・イランの製油所で待遇改善求めるデモ行進


●雁行型発展をした東アジアは、金融危機も雁行型

 日本を先頭に、韓国、台湾、東南アジアなどが順番に発展してきた戦後の東アジアの経済発展を、渡り鳥の雁(ガン)がV字型の群れになって飛ぶ様子に見立てて、経済学では雁行型発展と呼ぶ。その「雁行」、実は発展の時だけでなく、不良債権を抱えて金融機関が危機に陥る際も、同じような形をとっている。
 アジアの金融危機は、4年ほど前から始まった日本を先頭に、今では韓宝グループの破綻に象徴される韓国、国営銀行の貸し出しの40%が不良化しているといわれる中国、不動産バブルが最近崩壊したタイと、まさに群れになって落ちていく。台湾やインドネシアでも不良債権が増えている。いずれも不動産への貸し込みすぎが原因だ。


●北朝鮮の亡命事件を機に朝鮮半島和平のヘゲモニー握りたい中国

 北朝鮮の黄書記亡命に対する中国政府の出方が注目されている。韓国と中国の外務大臣が14日にシンガポールで会ったが、その際に中国側は「問題の解決には時間がかかる」と述べた。北朝鮮とも韓国とも仲たがいしたくない中国は、亡命事件が北京で起きたことを迷惑がっている、との報道が多いようだが、もしかすると、逆に、このところ米国が先導している朝鮮半島の和平交渉について、これを機に中国が仲介役として立ち、米国ばかりにヘゲモニーを握らせないようにしたいのではないか、との推測も成り立つ。

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●アンソン・チャン女史は香港の自由度を判断するカナリヤかも

 炭坑夫は昔、ガスが発生しやすい坑内に入るとき、かごに入れたカナリヤを持参した。ガスがわずかでも出ると、カナリヤが苦しみ出すので分かるという仕掛けだった。
 中国への返還を控えて先が読めない香港では今、香港政庁でナンバー2の立場にあるアンソン・チャン女史が、返還後の社会の自由度を示すカナリヤになるかも知れない。チャン女史は、返還実施の7月1日以降、新しい行政長官に就任する董建華氏の下でも特別行政区のナンバー2の座にとどまり続けることになっている。
 チャン女史は、人権を大切にする姿勢で知られ、香港市民の間の人気も高い。中国が香港での人権を一部制限すると発表した先日、チャン女史は遺憾の意を表明した。中国政府に追従する有名人が多い昨今の香港では、貴重な存在である。チャン女史が返還後、どうなっていくのか、どんな発言をするか、注目されている。


●タイの通貨バーツが危ない

 バーツの為替はこれまで、曖昧な形で米ドルにリンクしてきた。為替リスクが少ない上に高金利だということで、外国からの投資資金が大量に入ってきていたのだが、最近になって景気にかげりが出てきたり、不動産バブルの崩壊を機にした金融危機が発生し、リスク回避のため次第に資金が短期的なものになっている(長期資金の方が投資される方としては安定している)。こうした危うい状況を聞きつけて、為替投機筋がバーツ下落を狙った空売りをしている。2月14日には債券格付け会社ムーディーズがタイの国債格付けの見直しを発表、いよいよ暴落するかもしれない。メキシコ通貨危機の悲劇が思い出される。


●フィリピンのラモス大統領、いよいよ改憲に動き出すか

 ラモス大統領はフィリピン経済改革の父ともいえる人だが、その任期は98年までで、憲法により再選はできないことになっている。だがラモス氏は、憲法委員会に対して憲法の中で見直すべき項目を挙げるよう要請した。本人は、再選出馬するつもりはないと表明しているものの、これは再選に向けた動きではないかとフィリピンでは報じられている。自分では乗り気ではないが、皆が求めるなら仕方がない、もう一回やるか、という筋書きにしたいのかもしれない。

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●インドネシア大金鉱をめぐる政治騒動のどんでん返し

 ボルネオ島で見つかった世界最大級のブサン金鉱山の利権をめぐり、発見者のカナダ企業「ブリエックス社」と、インドネシア政界へのコネを駆使してその利権を横取りしようとする同じくカナダの「バリック社」との対立が続いていた。それぞれ、スハルト大統領の子息たちのうち別々の味方をつけての戦いだったが、それに手を焼いた父スハルト氏は、古くからの友人で特権的なビジネスマン、ボブ・ハッサン氏に仲介を要請、ハッサン氏はブリエックス社の利権を認めた上、バリック社を外す代わりに、インドネシアのイリアンジャヤで20年以上、金や銅の採掘を続けてきた最古参の米国「フリーポート社」に採掘実務を依頼するかたちで、先週末にこの騒動は一応の決着をみた。
 最近、英文メディアでは、相次いでハッサン氏の力などについて解説する記事が出ている。

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●朝日、毎日は日本共産党とつながっている?

 インドネシア政府情報省が、国内で頻発する暴動事件に対する日本の新聞の報道は偏向していると批判、日本の新聞、特に朝日と毎日は「日本共産党の工作と関係している」と言い放った。(2月17日共同通信電)
 確かに朝日や毎日は日本風左翼系だが、共産党と結び付けるとは、何とも無根拠で失礼な話だ。日本人「知識人」全体に対する侮辱とも受け取れる。インドネシアの当局は、以前から国内で反政府的な動きがあると、共産党勢力と結び付けた発言をすることで知られているが、それらも実は根拠のない決めつけだったのではないか、と思われても仕方がないだろう。
 とはいえ、朝日も毎日も、ジャカルタ特派員を追放されたくないので、会社としての大々的な抗議しないだろう(内々に抗議したかもしれないが)。日本の「知識人」たちも抗議するとは思えない。そんなことをしたら、インドネシアから先の戦争責任について言い返されるだけだろう。日本共産党はどうするかしら。抗議してほしいと思う。

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●イランの製油所で待遇改善求めるデモ行進

 首都テヘラン近郊の製油所で2月14日に起きた従業員のデモ行進の背景には、米国などによる長い経済制裁で、イランの人々の生活水準がかなり落ちていることがある。しかも、イランでは1980年代のイラクとの戦争当時、旧日本軍式の特攻隊を編成するために「産めよ増やせよ」的な政策をとったため、ベビーブームが続き、若者層に失業が増えている。ホメイニ師亡き後、イランは米国と仲直りして、経済を活性化したいという声も政府内部にあるのだが、政府の中にはイスラム原理主義者も多く、実行は難しい。米国クリントン政権も、イランはテロリスト国家という認識を変えておらず、事態は閉塞している。