●南アフリカでストライキ多発
(96.10.25)
南アフリカ共和国で、このところストライキが多発している。一九九四年に人種差別のない選挙が実施されてアパルトヘイトは完全に終わり、国民の七四%を占める黒人たちは豊かな生活ができるようになるはずだったのが、現実は甘くなかった。
南アフリカの大手労働コンサルタント会社の調べによると、ストライキによる企業従業員の怠業日数は、アパルトヘイトが撤廃に向かった移行期の九一年から九四年にかけて急増したが、ネルソン・マンデラ大統領が就任し、九四年後半にはいったん激減した。だが九五後半から再び増え始め、今年一ー九月の国内総欠勤(怠業)日数は前年同期比五五%増の百三十五万日となった。
南アフリカでは特に鉱山労働者のストライキが多く、今年七月に大手鉱山会社アングロ・アメリカンのプラチナ鉱山で三週間にわたるストがあり、連鎖的に別の鉱山会社インパラ社のプラチナ鉱山もストに入った。金鉱や炭鉱、ダイヤモンド鉱山でも賃上げ要求が続いている。ストの多発により、今年一ー九月期の鉱工業部門の賃金は前年同期比九・九%の上昇となった。(インフレ率は七%前後)
スト多発の背景には、アパルトヘイトの終了を機に、今まで白人経営者から搾取されてきた分を取り戻そうとして、二桁台の賃金上昇を求める黒人中心の労働者側と、鉱業産品の国際価格や利益率を考えるとこれ以上の賃上げには応じられない企業側の考え方のギャップがある。それでも昨年は、マンデラ政権から企業への圧力もあって企業側がある程度譲歩し、平均で一〇・四%の賃上げを実施したが、今年は政府の立場も企業寄りになった。南アフリカ最大の労働組合COSATUとマンデラ大統領率いる与党ANCは昨年まで、ともにアパルトヘイト打破のため長年ともに闘ってきた仲だったが、その関係も急速に悪化しつつある。
黒人政権樹立後の九四年は、アパルトヘイトに反対する国際的な経済制裁が解かれ、新生南アフリカへの国際的な注目度が高まるとともに外国からの投資が増え、経済は活況となった。マンデラ政権は、公設住宅の大量建設や、黒人居住地域の道路や下水道の整備など、大規模な公共投資政策を打ち出した。
だが、黒人系第二政党であるインカタ自由党とANCの間での黒人どうしの勢力争いや、抑圧から解放されて犯罪に走る人々も増え、人口あたりの殺人率は米国の六倍まで高まって世界最高となった。こうした政情不安から外資の引き上げが増え、政府の財政は窮乏した。今年八月には同国の通貨ランドの対ドル相場が史上最安値を記録し、債権国を代表する立場の国際通貨基金(IMF)の強い要請を受け、マンデラ政権は今年、国内総生産(GDP)の五・二%となっている財政赤字を、二〇〇〇年には三%まで減らす財政緊縮政策を飲まされた。黒人の生活向上を目指した公共投資計画は大幅に縮小され、労働者の政府に対する不信が高まって、COSATUは反政府色を強めた。
今年に入り、マンデラ大統領が前回選挙の際に大企業から受けた献金に違法の疑いがあることが発覚して政府への労働者の怒りが膨らみ、プラチナ鉱山では労組の反対を押し切って一部の労働者が山猫ストを決行した。労組が反政府の立場を鮮明にしなければ、労組にも手がつけられない混乱が広がる可能性があった。
南アフリカでは最近の政情不安に伴って、世界的な麻薬取引の中継地として使われたり、マネーロンダリングなどホワイトカラーによる知能犯罪も増えている。本来南アフリカは、豊富や地下資源やアフリカ最南端という地理的な条件を生かせば、東南アジアなみの高度成長が可能といわれており、マンデラ政権が今後打ち出す政策が注目されている。