上海で吹き出すミネラルウォーター戦争 96/07/06

 上海の夏は暑い。大都会の熱気は夜中になってもおさまらず、人々は家が狭いこともあって、家の前の路地に簡易ベッドを出して寝る。毎年夏の間に、暑さに負けて何人かのご老人が亡くなるという。

 その上海では今夏、ミネラルウォーターが人気を呼んでいる。「蒸留水」「鉱泉水」「純水」「超純水」はたまた「太空水」(宇宙の水)など、水の呼び名だけでいくつもある。ブランド名となると「雪碧」(真っ青な雪。確か「スプライト」と同じ漢字)「雪菲」「碧康」「碧純」と、紛らわしい名前のものや、「青春実」「正広和」「■柏克林」(「スパークリング」と読む)など、数十種類もある。メーカーの数だけでも国内企業、外資との合弁企業あわせて20社以上の企業が売り出している。

 ミネラルウォーターの値段は、500ミリリットル入りが2元5角から3元5角(32−45円)前後。中国としては非常に高い。同じ量の牛乳は1元8角(23円)前後である。ビールと比べても同じか、下手をすると水の方が高いかもしれない。

 上海の人は中国で一番、ファッショナブルで流行に敏感だと、自他ともに認めている。だから、欧米ではミネラルウォーターを飲むのが格好よく、健康にもいいと思えば、高くても買おうということになる。給料は少ないが、今の生活を楽しむために金に糸目をつけないのが、中国の大都市に住む最近の人々の特徴だ。

 競争が激しいので、電話一本で、自宅まで水を届けてくれるメーカーもあらわれた。上海市当局には、まだあと10数種類の水のブランド名が登録申請しており、ますます水売り競争は激しくなりそうだ。

 ところで、これらの水は本当に普通の水よりも上質なものなのだろうか。フィリピンの人に聞いた話だが、マニラにある巨大なゴミ捨て場、スモーキーマウンテンでは以前、ゴミの中に混じっているペットボトルを探して歩く人々がいたという。潰れていないボトルをみつけて拾い、家内工場のようなところで中を簡単に洗い、水(水道か、下手をすると天水)を詰める。ふたの部分も新しいものをつけ、ラベルも張り替える。そして市場に売る。あるマニラっ子は「フランス製やアメリカ製のブランド品ミネラルウォーターは大丈夫だが、国産品は気をつけた方がいい。水道の水を飲んだ方が安全なぐらいだ」と言っていた。中国ではどうなのだろうか。

 ニューヨークタイムスの元北京特派員の夫婦が書き、最近出版された「新中国人」という本(N・クリストフとS・ウーダン著、新潮社)には、病院で使い捨てされるはずの注射針が、使用後に秘密工場で再包装され、新品として再び市場に出まわった結果、この針からの感染で肝炎が広がり、大問題になった事件を紹介している。かなりの大病院でさえ、安いという理由で、実際は使い古しの注射針を使っていた。その病院の一部は、使った後の針を密かに再利用業者に売っていたのだ。

 こんなひどい話に比べたら、市内を流れる浦江の水がビンの中に入っているのだとしても、まあ許せる話なのかもしれない。

 なおこの話は、香港の中国語新聞「明報」6月8日付けの記事を参考にした。