中国は1980年から国債発行を開始した。最初の4年間は毎年20億元ずつの発行だったが、その後、経済成長が始まって道路や港湾、都市機能の充実などインフラ整備に使う金が急に必要になり、発行額は急増した。94年には1000億を越え、今年は1900億元の発行を予定している。だがこのうち約1000億元は、満期を迎える過去に発行した国債の償還に当てねばならない。今年の国債発行が消化できないと、以前の借金も返せないという危険な状態になりかねないのだ。
今年償還を迎える国債を持つ人々が恐れているのは、全額を現金で受け取れず、一部は売れ残りの国債を金の代わりにうけとることを強制されるのではないか、ということだ。昔の日本の軍票のようなものだ。中国ではかつて、89−90年と93年に、大企業に勤める人々などに国債を買うことを強制し、金がない人には給料から天引きして押し付けたということがあり、今回もまた「愛国精神」を強要されるのではないか、と人々は恐れている。
とはいえ今年はもう、国営企業の従業員に国債を押し付けることはできない。国営企業の大半は、最近勃興してきた個人企業や外資系企業の製品に市場を奪われ、倒産寸前の状態になっているからだ。では、個人企業はどうか。それも駄目だろう。かれらは賄賂あり、脱税ありのジャングル経済に生きている。だから国債を押し付けられそうになっても、従業員数の過少申告や担当役人への賄賂などで切り抜けてしまうだろう。
外資系合弁企業は狙われるかもしれない。国債を地元企業に割り当てるよう、中央政府から命じられた地方政府の役人は、いったん外資系企業に法外な規則を押し付け、何ならお目こぼししてやってもいいが、その代わり従業員に国債を強制的に買わせろ、と言ってきたりするのではないか。納得のいかない欧米企業はけっこう激しく抗議するが、比較的おとなしい日本企業は犠牲になるかもしれない。
来年の香港返還後、中国政府は香港でも国債を売り出すべく動いているが、香港の中央銀行にあたる金融管理局の総裁は5月末、記者会見で「香港では債権市場が成熟していないので、中国の国債を売るのはまだ早すぎる」と発表、うまく理由をつけて早々と断った。
この文は5月30日付けの香港の新聞「明報」の記事などを参考にした。