産み分けで崩れる中国の男女バランス 96/07/29


 子供を育てるなら、男の子と女の子、どっちがいいですか。と尋ねられれば、昔は迷わず「男の子!」だったが、最近は「女の子もかわいいかな」てなもんで、男女どっちがいいかという傾向は、日本の社会全体としてはなくなりつつある。
 だが中国では、今も断然「男の子!」だ。女だと結婚して家から出ていってしまうが、男なら農作業を手伝ったりできるから、という、日本の少し前までと同じ理由による。
 早めに新生児の男尊女卑指向が薄れた日本に比べ、中国は悲劇的な状態だ。というのは、中国人がとりわけ家族集団の維持を重視する民族であること、中国では厳しい一人っ子政策が続けられていることに加え、超音波スキャナーなど胎児の性別を見分ける技術が普及した現在でも、新生児に対する男尊女卑指向が続いているためだ。

 新華社通信7月4日の報道によると、中国南部の福建省で最近生まれた新生児の男女比は、女100に対し、男115.4である。世界の平均は大体、女100に対し男103(男の方が乳児死亡率が高いので、人間の種の保存原理として、もともと男が少し多めに生まれるのだそうだ)である。男の方が15%も多く生まれてしまうのは、かなり異常な状態だ。このままでは結婚できない男が増えてしまう。そのため、福建省では最近、超音波スキャナーなどによる胎児の性別鑑定を禁止した。
 これまでも、医者が妊婦や家族に胎児の性別予想を語るのは全国的に禁止されていたが、あまり守られていなかった。ちょっとした手数料(または個人的な賄賂)で、簡単に検査して教えてくれる、というのが普通だった。
 だが、福建省が制定した規則では、性別鑑定の結果を妊婦などに報告したことが2回以上発覚すると、医師免許を取り上げられてしまう。そして妊婦は次の子供の出産を一生、禁止される。新華社の記事には具体的には書いていないが、避妊手術を強制的に受けさせられたりするのかも知れない。というのは、密かに2人目以降の子供を産んだ妊婦には、最悪の場合、強制不妊手術が待っているというのが、従来からの中国の規則だからだ。

 ところで、超音波スキャナーを使った検査の結果、女の子だったらどうするか。堕胎してしまうのだ。検査は、おちんちんらしきものが見えたら男の子、見えなければ女の子、というもので、妊娠後かなりたってからでないと判別できないから、堕胎というより殺人だし、妊婦にとっても危険なものだ。それでも、子供は一人しか産めないから、どうしても男の子でないと、嫁にとっては大変な不名誉になってしまうから、女性たちは耐えねばならない。
 それに、おちんちんらしきものが見えなくても、それは見えないだけで、本当はついているというケースもある。こうした場合、堕胎して初めて男の子だったということに気付く。男女産み分けのことは、前にも紹介したことがある米国人記者夫婦によるルポルタージュ本「新中国人」(N・クリストフとS・ウーダン著、新潮社)にも紹介されており、それによると、こうした堕胎のうち20%は男の子を間違っておろしてしまい、母親はショックと悲しみで、ヒステリー状態になってしまうという。
 この本によると、こうした「間違い」をしないよう、赤ちゃんが生まれてから、男女を確認し、女の子だったら、そのまま産婆さんに子供を頭から水を張ったバケツに突っ込んでもらう人も多い。殺される方もたまったものではないが、母親になった女性も、どんなにつらいことだろうか。中国の女性に生まれなくて幸いだったと密かに思う。