しかし、良き時代は長く続かないかも知れない。5月末、中国湖南省長沙市で全国映画業務会議(全国電影工作会議)が開かれ、席上、政治的な意味で観衆の気持ちを奮い立たせる映画を作ることを奨励する政策を共産党政治局が提出し、了承された。
この政策は、中国の映画業界が2000年までに50本の政治的に「優良」な映画を作ることを目指す。人々を教育、啓蒙し、感動させ、人気を呼ぶ映画を優良な作品と呼び、当局が認定した優良作品を作る際は、特別に設けられた基金から金を出すという仕組みだ。当局の腹が痛まないように、映画館の入場料収入の5%、テレビのコマーシャル収入の3%をこの基金の元手として供出させる計画になっている。
中国では、共産党の政治や社会の不正義を皮肉る内容の映画は人気を呼ぶが、逆に共産党の御墨付きを受けたような作品は人気がない。人気作品は見に行かない人でさえもその筋書きを大体知っているほどの人気を呼ぶから、共産党としては、政治を嫌い、金銭第一主義に走っている人々を啓蒙するのに映画を使いたいところ。
だが当然、説教臭い映画は面白くない。そのジレンマを何とかするのが、お前たち映画のプロの役目だろ、というわけで、この政策が映画会に下ったのだった。経済発展と共産党一党支配の両立を狙った「社会主義市場経済」の映画版ともいうべき政策だが、そこには乗り越えがたい矛盾がある。
また中国政府は、欧米や日本からの映画、テレビドラマの輸入や上映、テレビでの放映も規制し始めている。「植民地主義者たちの文化支配を許さない」というわけなのだが、中国の人々は「またか・・」とがっくりきている。
この問題は、米中間の知的所有権問題とも絡んでいる。アメリカ政府としては、中国に海賊版ソフトの製造に関して圧力をかけた上で、問題解決の条件として、アメリカ製の映画、テレビ、コンピューターなどのソフトを中国市場で自由に売れるようにしてくれれば、アメリカとしてはもう文句を言わない、という暗黙の要求を出した。
アメリカにとって知的所有権の保護も大事だが、こっちの要求の方がもっと大事だったと思われる。欧米文化に飢えた12億人の大市場が開かれれば、ハリウッドを始めとするアメリカのソフトウェア産業にとって大利益となるからだ。だが結局、この交渉も中国側の強硬な態度により、いくつかの海賊版工場を中国の公安が襲撃しただけでアメリカの譲歩を引き出し、終結した。中国政府もワルだが、アメリカ政府も負けず劣らずのワルではないか。
なおこの文は、5月29日付け香港「明報」の記事などを参考に書いた。