6月17日付けの香港「明報」によると、この「広州市養犬管理規定」は今年9月1日から実施される予定で、犬を飼う市民は一匹について1万元(約13万円)の登録費と、毎年6千元ずつの費用を払わなければならないと定められている。
中国では犬は元来、食用であり、ペットとして飼うという風習は80年代の後半、欧米流の生活スタイルが入ってきてから始まった。犬を飼っているの人は、ほとんどが高級官僚、企業家など、経済的に豊かな人々に限られている。広州市当局は89年に、いったん市民が犬を飼うことを禁止する規則を作ったが、ほとんど守られることはなく、その後も犬を飼う人が増えたため、今度はお金を徴収する方法に切り替えた。
中国では、法律や規則を破る人を取り締まるかどうかは、当局またはその担当者の恣意的な判断に任されているのが現実だ。だから役人は、自分の友人が犬を飼っていても何も言わないが、全く利害関係のない市民が犬を飼っていることを突き止めたら、処罰することになる。
その際、規則を破った人を拘留したり裁判にかけても、役人にとっては得にならない。それより、何がしかのお金を受け取ることで、見逃してやった方が、もらう方には利益が大きく、渡す方には被害が少ないことが多い。そこで汚職がまかり通るようになる。中国人の意識としては、汚職というより合理主義なのだろう。
犬をめぐる広州の例でみると、これまで規則がほとんど守られていなかったということは、規則は中国流の合理主義方式で運営されてきたということだ。それを徴税方法に切り替えたということは、今まで役人個人がポケットに入れていたお金を、今後は広州市が税金(手数料)として受け取るということである。
しかし、これでは役人たち個人にとっては利益の喪失になるのではないか。いや、明報の記事にはちゃんと書いてある。「市民が1万元を払ったら、そのうち千元は彼ら(現場の役人)に、市民が6千元払ったら、そのうち600元は彼らが取るのである」。
広州市の養犬税は、特別な例ではない。中国の至るところで、「税金」「手数料」「協力費」などの名目で市民や村民からお金が徴収されている。列車の切符を買えば「鉄道施設利用料」。本来、切符の料金に含まれているはずのお金だ。車に乗れば「道路利用料」。そもそも公共施設の利用費用は税金で賄われているはず。家の近くにバイパスが通ることになったら、便利になる恩恵の対価を払えということで「建設協力費」。実際は排気ガスや騒音に悩まされるだけだったとしても。村に水道が布設されたら「水道協力費」。建設費の全てが国家や省の予算で賄われていたとしても、である。
実は、中国人の苦悩は、重い徴税に悩まされていた大昔の秦の時代と変わらないのかも知れない。ということは、まもなく劉邦(漢王朝の創始者)のような人間があらわれて、現代の「秦王朝」を倒し、次の王朝を築くことになる、という歴史が繰り返されるのかも知れない。