おすすめ書籍  

                        
「Cocktail Technic (カクテルテクニック)」 
                    
上田 和男著  芝田書店 1800円 

 この本の著者は、銀座資生堂のバー・「ロオジェ」の店長・チーフバーテンダーを
経て、現在は銀座で「TENDER(テンダー)」というバーのオーナーバーテンダーを
されている上田和男氏です。上田氏は業界ではとても有名なバーテンダーで、僕も大
変尊敬しています。

 この本は、上田氏のカクテルに関する考え方、バーテンダーとしての心構え、カク
テルを作るためのテクニック、カクテルレシピ、などを余すところ無く公開した、バ
ーテンダーには必携のマニュアルです。内容がマニアックすぎて、一般の方には少々
取っ付きにくいかもしれませんが、とても優れた本なので、書店で目にしたときは、
ぜひお手にとって御覧になってみて下さい。

 この本の特筆すべき内容の1つに、スタンダードカクテルのレシピと共に上田氏独
自のレシピが掲載されていることです。上田氏のレシピを見ると彼のカクテルに対す
る考え方や思い入れが伝わってきます。普通、自分自身の配合は、あまり他人に積極
的に教えたりしないのですが、さすが太っ腹ですね。この独自レシピには共感する部
分が多く、僕も実際に同じレシピで作っていたカクテルがいくつもありました。

 この本には、スタンダードカクテルが30種、上田氏のオリジナルカクテルは31
種掲載されています。他のカクテルブックに比べると少ないラインアップですが、基
本的な有名カクテルは全て掲載されています。

 書店には様々なカクテルブックが売られています。あまりカクテルに詳しくない方
には、どの本が良い本なのかわかりにくいかもしれません。実際、優れたカクテルブ
ックはかなり少ないと思ってよいでしょう。新しく出版された本でも装丁ばかり良く
て、内容は極めて古い駄本も混じっています。今時こんなカクテルやこんなレシピは
無いだろ〜、と驚いてしまう本もあります。

 ここでは、どのカクテルブックが良くないと取り上げることは出来ませんが、参考
のために1つだけ、あまりお年を召した著者の本は避けた方が無難かと思います。レ
シピも古く、現代人の嗜好に合わなかったり、新しいカクテルがほとんど掲載されて
いなかったりと、ちょっと使い勝手が悪いような気がします。

 上田氏のオリジナルカクテルはとても美味しいものが多いので、機会がありました
ら、ぜひ彼の店「TENDER(テンダー)」で、リクエストしてみて下さい。余談ですが、
なぜ店の名前が「TENDER」なのかと思ったら、きっとBAR「TENDER」= BARTEN-
DERとバーテンダーに引っかけてあるのですね。ギャグなのかな、違うか。

 当店では時々、他店のオリジナルカクテルを当たり前のように注文されるお客様が
いらっしゃいますが、基本的に、他店のオリジナルカクテルはその店でお飲みになっ
て下さい。レシピさえわかれば当店でも御用意することは可能ですが、使用している
スピリッツやリキュールの銘柄が変われば、オリジナルと同じ味を再現することは出
来ません。同じ銘柄の酒類を使用したとしても、オリジナルは本に掲載されているレ
シピそのままで作られているとは考えにくい為、あまり積極的に作ることははばかっ
てしまいます。もし他店のオリジナルカクテルをどうしてもお飲みになりたいときは、
飽くまで「こんな雰囲気の味なんだな」とお考え下さい。   (2000年7月18日)



「『A』撮影日誌」 森 達也著  現代書館2000円

 オウムの内部にカメラを持ち込んで撮影されたドキュメンタリー映画「A」の森達
也監督がお書きになった問題作です。「A」は1998年に公開されたのですが、オ
ウムに対する風当たりの強さから、国内ではあまり頻繁に公開することが出来ず、観
たくともなかなか観ることが出来ない映画でした。海外での評価が高いというのに、
なんとも皮肉なことです。

 「『A』撮影日誌」は映画の進行とリンクさせて、森監督のオウムに対する様々な
考え方を綴っています。その文章表現の素晴らしさ、的確さもさることながら、人間・
森達也の男気、真っ正直さ、判断力の正しさが溢れんばかりに伝わってくる優れたノ
ンフィクションとなっています。僕は森監督の人間性、行動力に惚れました。

 オウムに関する書物は数え切れないほど出版されていますが、オウムの内部に潜入
して伝えている本は「『A』撮影日誌」以外にはありません。

 オウムは大量殺戮を企てた教団として存亡の危機に瀕していますが、十把一絡げに
こちら側の情報のみで攻撃するばかりではなく、オウム内部の人間たちがどのような
生活をし、どのような考えを持って今もなお教団に留まっているのかを知ることが出
来、僕にとっては大いに参考になりました。お薦めです!   (2000年6月27日)



「無間地獄」 新堂冬樹著  幻冬舎 1800円

 この本は文句無く面白い! ワクワクドキドキ、ドッヒャ〜とお読みになれる、現
在めちゃめちゃ売れている小説です。原稿枚数1124枚の大作ですが、後半、ああ
もうすぐ終わっちゃう、もっともっと読んでいたい、ラストがどうなるのか知りたい
けど読み終わりたくない、と葛藤との戦いが忙しくなるほど面白いです。

 「無間地獄」は、元街金のコンサルタントをしていたサラ金業界の裏の裏まで知り
尽くした著者が、もしかしてあなたもこんなことしていたの?と錯覚してしまうほど
巧みにリアルに綴られた、壮絶震撼取り立て小説です。

 ホントにそんなに面白いの?と疑っているあなた、どこの書店にも置いてあるこの
「無間地獄」の序章をまず立ち読みして下さい。きっとわかっていただけるはずです。
本編はもっともっと面白いんですから! そのへんの映画やドラマを観ている場合じ
ゃなくなること受け合いです。これホント!         (2000年6月27日)

幻冬舎HP「無間地獄」詳細&著者インタビュー
http://www.gentosha.co.jp/special/6th_mugenjigoku.html#detail



「コンセント」 田口ランディ著     幻冬舎 1500円 

 田口ランディさんの処女長編小説「コンセント」(書き下ろし)が、幻冬舎より出
版されました。この小説は、「ひきこもり」「嗅覚異常」「精神分析」「シャーマン」
「死と再生」など多くのテーマが見事に融合され、実に面白く、読み始めたらもう最
後まで本を閉じることが出来ません。一気に読み切ってしまうこと間違いなしの、素
晴らしい小説です。また、上記のテーマ1つ1つについて、ランディさんが鋭い視点
で所見を綴っていますので、これらのテーマに御興味がある方には必読と言えるでし
ょう。

 「群像」5月号(講談社)での村上龍さんとランディさんの対談で、龍さんが「コ
ンセント」について「僕がこの10年ぐらいで読んだ小説のなかでも最も上質なもの
のひとつでした。(中略)今の現実に必要な小説だと思いましたよ」と絶賛していま
した。すでに村上龍を超えたと大絶賛する人もいるほどです。

 僕は、これから必ずや大作家として名を馳せるだろう田口ランディさんの記念すべ
き処女長編小説をリアルタイムで読むことが出来たことに、大きな喜びを感じていま
す。ぜひ皆様も、田口ランディさんの長編作家としての新たな歴史に立ち会ってみて
はいかがでしょうか。                   (2000年6月6日)



「オウム解体 宮崎学 VS 上祐史浩」 宮崎学著  雷韻出版 1600円 

  この本は、グリコ森永事件で騒がれた宮崎学氏と、昨年暮れに釈放されたオウム
(現アレフ)の上祐史浩氏の対談をまとめた本です。上祐氏はオウム時代に広報部長
としてテレビなどで口角泡を飛ばして喋りまくっていた印象が強いのですが、この対
談では予想に反して、かなり穏やかに語っています。宮崎氏のオウムの一連の事件に
関する質問に対して彼なりの考えを率直に語っているようなので、マスコミからの情
報とはまた違った一面をかいま見ることが出来ました。特に、上祐氏の麻原被告怪行
動の分析や、教団の教義解説などは一読に値すると思います。

 この「オウム解体」は、宮崎学氏のHPで序章と後書きの一部がお読みになれます。
           
http://www.zorro-me.com/miyazaki8/text/aum.htm

 また、田口ランディさんのメールマガジンでお読みになった方も多いと思いますが、
5月5日(金)17:40より、BOX東中野で、森達也監督がオウムの内部にカメ
ラを持ち込んで撮影した問題作「A」が上映され、上映後に森監督 vs 宮崎学氏の対
談が行われます。

 「A」はオウムの荒木浩広報副部長と行動を共にし、オウムの内側から外部(一般
社会)を見るという視点で撮られている、貴重なドキュメンタリー映画です。「A」
は様々な諸事情から日本国内での上映が難しいらしいのですが、現在、BOX東中野
で行われている「山形国際ドキュメンタリー映画祭'99 東京上映」(4月29日〜5
月12日)の中で上映されることになりました。興味がおありの方は今回の再映を絶
対にお見のがしなく!             http://www.mmjp.or.jp/BOX/
 
 僕はもう一度「A」を観たくてたまらないのですが、金曜、夜、のダブルパンチで
どうしても観に行くことができず、地団駄を踏んでいじけています。おまけにこの日
の森監督 vs 宮崎学氏の対談は、壮絶トークバトルになると予想しているので、残念
でなりません、とほほ。                  (2000年5月1日)



『綾。ホステス、22歳』 綾こと藤森直子著 (洋泉社) 1400円 

 この本は昨年9月に出版されました。元キャバクラホステスで現SM嬢の綾こと藤
森直子ことNAOさんがお書きになった本です。先日、田口ランディさんが御自身の
メルマガでNAOさんのHPを御紹介されたので、すでに御存知の方も多いと思いま
す。

 この本はホントめちゃめちゃ面白かったです。何といってもNAOさんの文章力と
構成の上手さが光っています。僕はこの本を読みながら、田口ランディさんの著書
「忘れないよ!ヴェトナム」(ダイヤモンド社)を思い出しました。ランディさんに
も似たグイグイ引っぱり込まれる「力」が、この本にはあったからです。
 
 『綾。ホステス、22歳』はキャバクラ時代の出来事や22歳の頃のNAOさんの
考えを綴った本ですが、この本から僕は「サービス」と「男のあり方」を学びました。
キャバクラもBARも、接客に関して共通部分が多いのに驚き、読んでいて思わず、
「あるあるある〜〜」と「クイズ100人」の客のように声を発してしまったほどで
す(ふる〜〜 笑) 「男のあり方」に関しては、キャバクラの客を通して「こんな
男になっちゃいけない、って、なってないけど、でも男はこんなじゃ駄目だよ〜〜」
と男の美学を反面教師として学習させてもらいました。

 この本は、雑誌のようにさらっと読むことも出来るし、読み取り方によっては勉強
も出来るという素敵な本です。特に、男の本質や美学を学びたい男性と、男ってホン
トはどんな生き物なんだろう、と気になる女性におすすめします。
                             (2000年4月21日)



「おさかなマンハッタンをゆく」 渡辺葉 著(日経ホーム出版)
                               
渡辺葉さんは現在マンハッタンに住んで、作家、翻訳家、舞台女優修行をして
いる、作家・椎名誠さんの娘さんです。

実は彼女は4年前に当店でアルバイトをしていたことがあります。今でも思い
出してしまうのですが、彼女は当店の面接に分厚い洋書を抱えて現れました。
とても物腰が穏やかで知的な雰囲気を持っていたので、思わず「このBARでい
いんですか?」などと、とんちんかんなことを聞いてしまいました(笑)「こ
ういう才能のある人はきっと長くは勤めないんだろうな」という予想を裏切ら
ず、数ヶ月で去って行きました(円満退店でした)。接客態度がとても良く、
多くのファンを獲得していましたよ。

この本は彼女の自叙伝なのですが、一見、順風満帆に生きてきたように見えて、
実は様々な壁にぶつかって苦悩していたことが、正直に素直に書かれています。
悩み抜いて、それを乗り越えながら、常に新しいことにチャレンジし続ける前
向きな姿勢に、読んでいて心打たれました。現在、何かに悩んでいる方に読ん
でもらえたら、ある意味、心が癒されるような、ヒーリング的効果もあるので
はないかと思いました。

繊細で透き通った文章表現も素敵で、知り合い関係を抜きにしても、とても良
い本だと思います。もし書店で見かけたら、ぜひ立ち読みしてみて下さい。葉
さんのエピソードは、今度機会があったら御紹介してみたいと思います。

                         (1999年12月30日)


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