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★ 「わけ知り顔の店員たち」
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(2000年3月1日)
▼フロッピーディスクアダプター昨年暮れにデジタルカメラを購入した。そのデジカメの画像データをパソコンに転送
する方法は2種類あって、1つはデジカメとパソコンをラインで繋いでデータを転送
する方法、もう1つはフロッピー型のアダプターにデジカメのメモリーカード(スマ
ートメディア)を差込んで、パソコン本体で読み込む方法である。僕は使い勝手の良
さからフロッピーディスクアダプターを選ぶつもりだったのだが、店員に止められて
しまった。「フロッピーディスクアダプターを使うと、ハードディスクがクラッシュしますよ。
これは危険です。絶対に使ってはいけません」「げっ。そ、そうなんですか。でもどうして?」
店員は薄笑いを浮かべながら囁くように、「フロッピーディスクアダプターに添付さ
れているドライバーソフトに問題があるらしいんです。これを使って下手をすると、
パソコン内のデータが全て消えてしまう危険性があるんですよ、お客様」と淡々と話
した。でも店員の目は笑ってない。おお、なんか説得力があるような無いような。それにしてもオカルトチックに語る店
員である。しかしそう言われてはフロッピーディスクアダプターを買う気が萎える。
万が一でもクラッシュしたら怖いし、画像転送できなければ始まらないのでとりあえ
ずラインで接続するキットを買うことにした。家に持ち帰ってさっそくデジカメで何枚か試し撮りした後、パソコンにドライバーソ
フトをインストールしてデジカメを接続し、データ転送を試みた。ところがたった数
枚の画像の転送がいつまでたっても終わらないのだ。う〜〜、のろまな亀め。結局、
5枚の画像転送になんと15分もかかってしまった。これじゃ20枚転送したら1時
間かかってしまう。フィルム式カメラの現像の方が早いじゃないか。デジタル機器の
くせに転送速度は極めてアナログだ。やっぱりフロッピーディスクアダプターじゃなきゃだめだ。クラッシュしたらしたで
いい。バックアップをとっておいてインストールし直せばいいのだ。でも待てよ。そういえばあの店に置いてあったフロッピーディスクアダプターは確か
デジカメとは違うメーカーのものだったぞ。聞き慣れないメーカー名だったな。やっ
ぱり買うなら同じメーカーの純正品で揃えなきゃ。万が一の時に保証も効きやすい。次の日に他店でフロッピーディスクアダプターの純正品を買ってきて、昨日と同じ画
像を転送してみたら、ものの30秒で転送が終了した。なんてこったい。この激しい
差はなんなのさ。まさに雲泥の差とはこのことだ。おまけに極めて正常動作している。あの店はきっとデジカメと専用接続キットをセットで売りたくて、それで在庫のサー
ドパーティー製フロッピーディスクアダプターが危険だとうそぶいていたような気が
してきた。もしそうならまんまとしてやられたわけである。1本取られたなこりゃ。▼アクセラレーター
数年前に購入したパワーマッキントッシュ8500/132を使用しているのだが、
近頃このパソコンの動作の遅さにほとほと愛想を尽かし、思い切ってアクセラレータ
ーを装着することを決めた。アクセラレーターとはCPUが乗っているドーターボー
ドをより早いCPUに交換することにより、パソコンを買い換えずにパワーアップで
きる大変便利な基盤なのだ。数誌のアクセラレーター比較特集を読んで目当てのボードを決定し、次の休みの日に
さっそく新宿西口に出かけて行った。最初に訪れた「カメラのAパソコン館」ではア
クセラレーター売場が発見できなかったので、店員に尋ねてみた。「お探しのアクセラレーターのメーカー名と型番を教えて下さい」と女性店員が聞く
ので、「いくつかの種類を見てから決めたいと思っているのですが」と答えた。する
と店員はもじもじして「当店にはアクセラレーターは置いてございません」と恥ずか
しそうに言う。「1種類もないんですか?」と聞くと「はい」と答えた。じゃ型番聞
くなよと思ったが、文句を言っても仕方がないので次の店へ行くことにした。今の店員は何だったんだろうと考えながら、次に本命店Bに到着した。その店には、
10種類ほどのアクセラレーターが置いてあったので、ひとまずホッとした。しかし
目当ての製品は無く、その上位機種と下位機種が間にぽっかりと穴を空けて並んでい
た。店員に聞いてみたがやはり在庫はなく、じゃあこのどちらかにしようと思案し始
めた。下位機種ではパワー不足だし、上位機種は早さは申し分ないのだが、はるかに予算オ
ーバーである。他メーカー製品と比較しながら10分ほど悩んだのだが、どうせ買う
ならこの上位機種しかないと決断し、店員を呼んだ。「これを下さい」と言うと店員は僕が使用しているパソコンの種類を尋ね、「少々お
待ち下さい」と言い残してカウンター内の店員に何やら相談しに行ってしまった。少
しして店員が戻ってきて僕に言った。「お客様のパソコンに装着するとパソコンがク
ラッシュしてしまうかもしれないですねえ」えっ、またこれもクラッシュかよ。また何か裏があるの?
「これは僕のパソコンに対応しているボードなんじゃないんですか?」
「ええそうなんですけど、これを買ったお客様は皆さんパソコンがクラッシュされて
いるんですよ。正常に作動したらほとんどラッキーってぐらいの確率ですねえ」「クラッシュしてしまうのは、僕が買おうとしているボードだけなんですか?」
「いいえ、他社のボードも同様です。ここにあるものは全ておすすめできません」
店員は自信たっぷりに言い切るのだが、おすすめできないものをずらりと並べてある
のはなぜなんだ。かつてはアクセラレーターによる動作の不具合が指摘されていた時
代もあったが、最近の雑誌の比較レポートにはそんなことは一言も書いてないぞ。う
〜ん怪しい。でも気になる。いったいどうすればいいのだ。その時、僕は悩みながら
かつての苦い経験を思い出した。あれは10年前、僕が所有していた8トラックの多重録音用デッキ(MTR)と同期
できるシーケンスソフト(作曲用ソフト)はないものかと探していた。しかし、当時
シーケンスソフトはまだかなりマニアックな部類に属していたため情報も極めて乏し
かった。そこで、コンピューターミュージックの機材が豊富に揃っているC楽器に相
談に行き、DTP担当の店員に聞いてみることにした。しかし、その訳知り顔の店員
は「ああ、それは出来ないですね」とあっけなく僕の希望を打ち砕いたのである。僕は何の疑問も持たずに「そっかあ、これは駄目かあ」と諦め、1ヶ月ほどああでも
ないこうでもないと悩んでしまった。ある日レコーディング雑誌を読んでいると、購
入を考えていたソフトとMTRのリンクが出来ると書かれていた。「あいつ〜、知っ
たかぶったな」と店員を恨んだがもう後の祭り。そのおかげで僕は1ヶ月も回り道を
してしまった。いま目の前にいるこの店員は本当にアクセラレーターのことをよく知っているんだろ
うか? ここにあるボード全部が、クラッシュの原因になるなんて到底信じられない。
そんなの絶対におかしいよ。そんな危なっかしいもの売るわけないじゃん。どうしても彼の説明が納得できない。こうなったら僕が装着して彼の間違いを証明し
てやる。そのためなら大枚6万円をドブに捨てることになってもいい。「じゃ、これ下さい」 僕がそう言うと「ええっ!!」と店員は目を丸くして驚いた。
「いいんですか?」「はい」「どれにしますか」「この上位機種を」「ええっ!!」
店員は2度驚いた。ムキになって買ったのはよかったが、装着するまでの間はちょっとドキドキだった。
しかし、アクセラレーターを装着してもパソコンはちゃんと起動し、何1つ問題なく
動いたのだった。おまけに動作が予想以上にめちゃめちゃ早い。はっきりいって大満
足である。その日、購入したアクセラレーターのメーカーにメールを書いた。店員が話していた
クラッシュについての情報の真偽を知りたかったのだ。果たしてその返事には「その
店員さんのおっしゃるような不具合の発生によるユーザーからの問い合わせは、発売
以来1件もありません」と書いてあった。やっぱりそうか。店員の話を聞いた時、買い控えようかと一瞬心が揺れたのだが、買
って良かった。店員は僕を騙すつもりなど毛頭なかっただろう。きっと実際に何人かのお客のパソコ
ンはトラブルに見舞われたのである。ただ彼はそのトラブルがどのアクセラレーター
で、どんなパソコン環境で起こったのかを知らなかった。どれもこれも同じようなも
のだと思って、それでお客が買うのを止めて回っていたのだろう。しかしそれではパ
ソコンショップの店員は務まらない。正しい情報をお客に伝えなければ、お客をいた
ずらに混乱させるだけである。結局、買い物する時には店員を決して当てにはせず、自分で十分に下調べをして自己
の責任に於いて購入するというのが一番だということがよくわかり、とても勉強にな
った。▼私的・買い物の心得
買い物はある種店員との駆け引きが必要である。店員の勧める商品がいつも本当に一
番良いものとは限らない。利幅の大きい商品を上手に売りつける時もあれば新商品入
荷前に在庫を一掃するために勧める時もある。要は店員の勧めを受けずに自分にとっ
て最適な商品を選び出すことが出来れば良いのだ。でもそれが難しい。前述のエピソードをお読みになって「お前も大した買い方はしてないじゃないか」と
突っ込む方もいらっしゃるだろう。その通りである。毎回気をつけているつもりでも、
ついつい店員の言うことを鵜呑みにしてしまったりする。これはひとえに、欲しい商
品に対する情報不足(収集不足)が店員への依頼心を生じさせているのだ。それゆえ
に日頃から欲しいものに対する選択眼を養い、絶対に後悔をしない買い物が出来るよ
うにと努めて考えている。僕はそれほど物欲がある方ではないのだが、雑誌などをパラパラと目を通している時
に、突然ある商品に目を奪われ「これだ!これが欲しい!」と思うことが稀にある。
僕はこれを神の啓示、あるいは商品とのマリアージュ(結婚)と呼んでいる。勝手な
思い込みである。その欲しくてたまらない商品が他に類を見ない画期的なものだった場合、買いたい衝
動を抑え、後継機種が発売されるまでなるべく見送ることにしている。なぜなら次に
発売される後継機種は大体ものすご〜〜く使い勝手が向上し機能がパワーアップする
からである。それはもう最初に出た商品を捨てたくなるぐらい良くなることが多い。
ソニーのハンディカムしかり、ビクターのデジタルビデオカメラしかりである。当店のお客様で新しもの好きの警察官がいるのだが、やめとけばって言ったのに初代
MDウォークマンを買ってしまった。「買っちゃった〜〜」と自慢げに取り出したも
のを見てぶったまげた。「でけえ〜〜! 重い〜〜!」 例えて言うならミスタード
ーナツドでポイントを貯めてもらえる子供用の弁当箱かと思ったぐらいだ。音を聞い
てまたびっくり。全然良くない。まあこれはお客様の録音の仕方も悪いのだが、それ
にしてもこりゃひどい。これは、新ジャンル一番乗りが至上命令のソニーより先にシャープからMDウォーク
マンが発売されそうになり、慌てたソニーがシャープの発売日に合わせて繰り上げ発
売したため、本体を小さくしきれなかったそうである。現在では1号機の1/20ぐ
らいの大きさになってしまっている。同型異社の製品を比べるには雑誌などの商品比較レポートが参考になる。レポートに
載っている商品の広告がその雑誌に掲載されている場合、スポンサーの商品を悪く書
かないのが普通なので、記事をそのまま鵜呑みには出来ない。しかし「この商品の◯
と×」のような記事が必ず載っているので、それを読めば特徴がはっきりと見えてく
る。本当に満足できる商品に出会えたら、もう関連商品が気になることもなく何も考えな
くて済む。その他の商品に心を動かされない満ち足りた気持ちを得るために、これか
らももっと選択眼を高めて行かねばと思っている。<END>