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★ 中田英寿ASローマ移籍について  
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                            (2000年1月20日)

イタリア・セリエAで活躍する日本人サッカー選手、中田英寿が1月13日にASペルー
ジャからASローマへと移籍した。移籍の噂は昨シーズン終了時から現在までずっと囁
かれていたが、シーズン半ばのこの時期の移籍は、自分も含めた多くの中田ファンを
驚かせた。

昨シーズン終了後、中田は他強豪チームからのオファーを積極的に受けて移籍を画策
したと予想されるが、ペルージャ代表のガウッチ会長が中田残留の目的で法外な移籍
金を要求した為、移籍はならなかった。しかし現在、ペルージャの成績は思わしくな
く、次第に順位を下げつつある状況での突然の中田放出の意図は、いったいどこにあ
るのだろうか。

僕は中田の移籍は今期終了までありえないと思っていた。それは中田が桁外れに責任
感の強い男だからである。今やチームの中心的存在の中田が、沈没しかけた船のよう
に順位を下げているペルージャを見捨てて、シーズン途中で他チームに乗り換えてし
まうとは到底思えなかったのだ。しかし、チーム間の合意がなければ移籍はあり得な
い。ガウッチが中田放出を決めたのである。チームの戦力が落ちても許せる十分な見
返りがあったのだろう。

中田のマスコミ嫌いは有名である。記者会見に出席しない、インタビューを受けない、
マイクを向けられると黙りこむ、度を超えた取材にキレる、など枚挙に遑がない。従
って今回の移籍に関して正直な気持を語ったのは、自分自身のホームページ上に於い
てのみである。

中田はHPで、ローマへの移籍は悩み抜いた上での選択であったことを告白している。
「現状での移籍は絶対にしてはいけないこと。しかしプロサッカー選手としてこのチ
ャンスを逃すことは出来ない。最終的にプロとしての気持ちを選択した」と書いてい
る。

中田がセリエAに来た主な理由、それは「自分のサッカーがどこまで世界に通じるか」
「自分が思い描いている高度なサッカーを実践したい」という強い思いからだろう。
昨年度の1年間、がむしゃらにプレーした結果、「もっと強いチームに移籍しないと
自分のサッカーが出来ない」ということを悟り、他チームと交渉を続けたがガウッチ
に阻まれて移籍できなかった。

そこで今期は「どうやったらペルージャで勝てるか」という新たな目標を付加したが、
ペルージャは勝てない。こうすれば勝てるという戦略があっても、それを共に実践で
きる選手がペルージャには少なすぎるのだ。

「チームを勝てるようにしたい。しかしペルージャでは自分の考えるサッカーを展開
することが難しい」 中田はいつも理想と現実の狭間で悩んでいたのだろう。自分の
理想とするサッカーがどのチームで実践出来るかを知っているだけに、悩みも深かっ
たに違いない。

その深い悩みとプロ意識がこの時期の移籍につながった。それが「プロとしての気持」
なのだ。「情に流されてはいけない。プロとして行動しよう」と考え、そして決断を
下した。

ローマは現在、十分優勝を狙える位置にいる。優勝するために、今すぐ中田が必要な
のだ。そのために高額の移籍金を用意した。複数の選手も交換条件に付けた。ローマ
には中田の意図をすぐに実践できる選手も多い。これではペルージャに留まるのは、
結果的に情に流されるだけで、前向きな選択とはいえない。自分に対して厳しく、し
かも人一倍情に厚い中田は、とうとうプロとしての選択を下した。

僕は本来、サッカー選手としての中田よりも人間としての中田英寿に魅力を感じてい
る。中田の生き方に共感し尊敬している。彼を知ることにより、自分の生き方を見つ
め直すことが出来る素晴らしい男である。

と、ここまで書いたところで、今、テレビでローマ戦を見終えたところだ。移籍後、
たったの2日しかローマで練習をしていない中田がスタメンで出場し、少々疲れてい
るように見えたのだが、いつも通り活躍していた。誰が見ても、中田のローマ移籍が
正しかったことは一目瞭然だろう。凄い男である。

これからは中田からいっそう目が離せない。彼の行動や言動がいかに僕に影響を与え
ているかを、そのうち書き綴ってみたい。<END>