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★ 中田英寿 不調問題とマスコミ報道について  
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                            (2000年1月30日)

前回に引き続き、イタリア・セリエAで活躍する中田英寿選手を取り上げてみたい。

中田は1月13日にペルージャから強豪ローマへ移籍した。14日からローマの練習
に合流し、16日のセリエA第17節、対ベローナ戦にスタメンで出場。後半に入って
途中交代したものの、移籍直後にしてはまずまずのプレイでスタジアムを沸かせ、ロ
ーマは3−1で勝利を飾った。

続く22日の18節、格下のピアチェンツァ相手に中田は苦戦し、イタリア移籍後最短
の45分間(前半のみ)で途中退場させられた。試合の方は2−1とローマが逆転勝
ちした。

25日、イタリア杯準々決勝第2戦ではカリアリと対戦した。中田は移籍後初のフル
出場を果たしたが、この日も見せ場はなく、ローマは0−1で敗れた。

毎日、スポーツ新聞などでは「中田、大スランプ!」と見出しが舞い、酷評が続出し
ている。プロ選手である以上、結果を出さなければ叩かれるのは当然なのだが、あま
りに極端に上げたり下げたり忙しい報道のされ方には、少々不満を覚えている。

中田が不振に喘いでいるこの現状は、実は彼が最も切望していた状況なのではないか
と思うのだ。世界最高峰といわれるセリエAの中でもトップクラスに位置するローマ
で今、中田は急成長を遂げている真っ最中である。今までになかった大きな壁にぶち
当たり、壁を1つ1つ乗り越えて、中田が思い描いている理想のサッカーに向かって
一歩一歩着実に近づいている。極端な言い方かもしれないが、不振と言われているこ
の状況に身を置き、現状を打破するためにこそ中田はセリエAに移籍して来たといえ
るのではないだろうか。

海外のスター選手がセリエAに移籍してきても、優れた仕事をするまでに数ヶ月から
1シーズンかかってしまうといわれている過酷なリーグである。いくら中田が昨年1
シーズン、ペルージャで優秀な仕事をしてきたとはいえ、ローマは現在3位の強豪チ
ームなのである。ペルージャの時とはわけが違う。

前回のワールドカップ予選の時も国内では中田の評価は決して絶大ではなかった。し
かし彼の元には予選中の段階から世界の名だたるチームから移籍のオファーが殺到し
た。中田自身も日本のマスコミのサッカー批判に対して「的外れ」「サッカーをわか
ってない」と言っていた。

中田がなぜマスコミに対して嫌悪感をむき出しにしているのかというと、自分の喋っ
たことが全く違った内容に書き換えられる、ねつ造される、匿名記事により自分の記
事に責任を持たない等が、中田自身のプロ意識とあまりにかけ離れているからである。

中田がマスコミに対して求めているプロ意識とは、「真実を正しく報道する」という
ことに他ならない。記者個人の憶測や、噂話を鵜呑みにして公表すること、また、あ
りもしない話をでっち上げる仕事ぶりを「プロ意識の欠如」と批判し、固く口を閉ざ
すようになった。「誰かがやらなきゃいけない」と、たった1人でマスコミに抵抗す
る道を選択したのである。

昨年暮れ、中田の特集番組がテレビで放送された。その中で中田がまだ高校生の頃の
インタビューが映し出されたのだが、そこで喋っていた中田は、僕が知る現在の中田
とは別人のような明るく人なつっこい少年だった。インタビュアーに対して警戒心を
微塵も抱いていないその姿を見て、「これが本当の中田の姿なのだ」と理解できた。

中田はマスコミを信じなくなってから、インターネットを通じて自分のホームページ
にだけ本音を寄せるようになった。彼はその中で「僕がここで書くことだけを信じて
ほしい。他の記事に惑わされないでほしい」と書いている。2年前の5月より手記を
掲載し始め、現在までに78通の本音を寄せている。

彼のHP「中田英寿 オフィシャルホームページ」には毎日、数百万のアクセスがあ
り、先日のローマ移籍の真相に関してはマスコミに対して「自分のHPで伝えます」
という言葉がテレビ、新聞で報道されたせいもあって、その日1日で1200万アク
セスを記録したという。中田にとって、本音を語れるインターネットというメディア
があるおかげで、精神のバランスが保てているのかもしれない。

中田はかつて誰も成し得なかった日本人初のセリエAのトップ選手になった。彼が今
まで実践してきたサッカーに対する考え方が正しかったことが実証されたわけである。
はっきり言って、中田のサッカーに対してとやかく批判しても良い人間など、日本に
は存在しないとさえ思っている。

ともするとマスコミの報道はいつも正しいと思ってしまいがちだが、記者の個人的な
主張が強過ぎて、正確性に欠けていると疑問を感じる記事を目にすることも多い。全
てを鵜呑みにせずにいつも疑問を持ちながら真実を見極める目を養い続けたいと、僕
は思う次第である。
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