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★ 『「買ってはいけない」は買ってはいけない』について
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(1999年10月24日)
「買ってはいけない」(週間金曜日刊)が160万部を突破したそうだ。この
本が発売されてから、賛否両論さまざまな意見が飛び交い、激論が交わされて
いる最中、今度は『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)
という冗談のようなタイトルの本が発売された。まるで、「買ってはいけない」
と見間違えるような装丁を施したこの本は、各書店で隣どうしに置かれて売っ
ている。僕自身は「買ってはいけない」に多大な影響を受け、自らの生活を“抜本的に
見直した派”である。とはいえ、この本に書かれていることを鵜呑みにしたわ
けではない。「疑わしきは消費せず」という著者の考え方に共感を覚え、我が
家にあった不要と思われるものを廃棄し、新たには買わなくなったということ
である。添加物や化学物質の知識などまるで持たない僕にとって、「買ってはいけない」
の内容がどの程度真実なのかは知る由もなかったので、出来るだけ話半分に読
むことを心掛けたつもりである。しかし、内容が非常にショッキングなものば
かりだったので、ついつい信じてしまいがちだったことは否めない。現在は「買ってはいけない」商品とどのようにつき合ってゆけば良いのか、自
分なりに考えがまとまっているので、もうこの本を紐解く必要もなくなり、本
棚にしまい込んでしまった。後は、雑誌などの関連記事を時々チェックして、
真実を見極めたいと思っているところである。『「買ってはいけない」は買ってはいけない』は、タイトルを読んで字のごと
し、批判本である。批判記事は「買ってはいけない」と全く違った意見が読め
る点で大変喜ばしい。新たな真実の発見を期待して読んでみることにした。■『「買ってはいけない」は買ってはいけない』の概要
一見、便乗商法のようなこの本は、「買ってはいけない」に掲載された全商品
を同じ順で取り上げ、「買ってはいけない」の科学データは嘘っぱちだと批判
している。10名の方々が執筆されているのだが、経歴が記されていないので、
どのような分野で活動されているのかは今のところ不明である。また、同書に
は他に8名の見識者による「買ってはいけない」批判コラムと、大学院理学研
究科化学専攻の学生4名の座談会も合わせて掲載されている。各商品名の下に、商品の【買ってもいい度】が5つの星印で10段階評価され
ているのが、この本の大きな特徴である。書かれた内容を読まなくとも商品価
値が一目でわかるようになっている。(例)「味の素」母乳の基本成分であるグルタミン酸が危険?<★★★★☆>
本書に記されている星印に関する説明は、<安全性、有用性、商品の独自性を
鑑みて、商品価値を星印にしてみました。購入時の参考にしてください>とあ
る。しかし、この星印をどのように受け取るかは読者に委ねているらしく、い
くつ星だからどうなのかという表記はされていない。そこで僕は本書を一読し
た上で、以下のように考えてみた。5 安全。全く問題なし
4&41/2 一部の体質に合わない人を除いてほとんど安全
3&31/2 積極的におすすめはしない。個人の責任で購入のこと
2&21/2 こちらからおすすめはしない。個人の責任で購入のこと
1&11/2 おすすめできない
1/2 購入しないことが望ましい
0 危険次に、本書で取り上げている商品の星獲得数を数えてみた。89品目中、現在
製造終了したもの6品を除いた83品目の獲得星の内訳は、以下の通りである。5 = 2
4&41/2 =19
3&31/2 =34
2&21/2 =13
1&11/2 = 8
1/2 = 6
0 = 1僕の考える獲得星の概念に従うと、結果は以下の通りである。
・ほとんど安全だと思われる商品(4星・5星)=21品目
・購入は個人の判断に委ねる商品(2星・3星)=47品目
・危険だと思われる商品(1星・1/2星・0星)=15品目本書が安全と認める商品は全体の25%程度であった。過半数の商品が、絶対
に安全とは言い切れない位置にある。この結果から、本書は「買ってはいけない」に書かれている商品批判データが
偽り・ねつ造であると批判することを中心に書かれたものであり、商品の安全
性を立証することが最重要目的ではないようだ。「買ってはいけない」を批判
しながら、掲載商品が安全であると証明されていない記事も多く含まれている
ため、この本は切り口は違うにせよ、事実上「買ってはいけない」と同一線上
にある本であると判断した。本書の記事構成は、「買ってはいけない」の論点を要約して掲載し、間違い部
分を訂正しながら商品を肯定するという形式をとっている。著者は皆、よほど
「買ってはいけない」に恨みを持っているのだろう。化学データの訂正のみな
らず、時に感情的になって批判している。本書は、真っ向勝負をしかける剛速球記事もあれば、「買ってはいけない」の
記事の一部だけを批判する変化球、また、「これは隠し玉では?」と、首を傾
げるような無理矢理アウトまで、手法は様々でなかなか飽きさせない。だが、
多くの記事に「変化球」が見うけられる。僕の好みの問題なのかも知れないが、相手を批判する場合、もし本当に打ち負
かせるだけの正当な反論データがあるのなら、その内容だけを冷静に記す方が
説得力が増すように思える。しかし、反論以外に中傷めいたことが書いてあれ
ばあるほど「反論に自信が無いのでは?」と、疑問を持ってしまうのだ。その「変化球」と「隠し玉」の際だった例をいくつか挙げてみよう。ただし、
僕には科学データをとやかく言える知識が無いので、データや数値にはいっさ
い触れないものとする。ごめんなさい、本当は「触れられない」が正解である。■日清「カップヌードル」 <★1/2>
<カップめんが栄養の面から問題があることは百万年も前から言われ続けてき
たことなのでいまさら「買ってはいけない」から指摘されるに及ばない>という出だしで始まり、この後「買ってはいけない」が指摘した、容器から溶
出する環境ホルモンの危険性について、科学的データによる反論が書かれてい
る。そして、最後のまとめである。<ポリスチレン・カップからは実にいろいろなものが溶け出すことは間違いな
い。それが不安な人は避けた方がいいかもしれない>この記事を読んで残念に思ったことは、これから化学データの反論をしようと
いう時に「百万年も前から」などと皮肉たっぷりに根拠の無い数字を上げられ
ては、後のデータに対する信頼性が希薄になってしまうのだ。この記事では、
「買ってはいけない」の化学データを批判・訂正するだけに止まっており、商
品の安全性を立証する新たな情報は提供していない。「カップからはいろいろ
な物質が溶けだしているので、スチレン・モノマーのせいとは特定できない」
と言っているだけである。多くの読者は、化学物質の勉強をしたくてこの本を読んでいるのではない。
『「買ってはいけない」は買ってはいけない』と大見得を切るタイトルを付け
たこの本を読んで、「買ってはいけない」商品が本当に安全なのかどうかを知
りたいのである。商品の安全性を立証できずして、何のための反論なのかと疑
問に思ってしまった。■ロッテ「ゼロ」 <★★★★>
「ゼロ」(チョコレート)はその成分である消化吸収されない甘味料が、下痢
症状を引き起こしやすいことが「買ってはいけない」理由のひとつであった。
本書ではこの点を次のように反論している。<「これは下痢をしやすいからやめろ」といったところで、「どうしても肥り
たくないからこれにします」という人にとっては余計なお世話ではないか。甘
いものを食べたいが肥りたくはない、という人たちの悩みは本当に切実なもの
である。>「買ってはいけない」では、一般論として「おなかがゆるくなるような食品は
いらない」と訴えていたように思う。いわば読者にこの商品に関する知識を提
供していたのである。その点を理解した上で、食べるか食べないかを選択する
のは消費者の自由である。「下痢をするならダイエットにちょうどいい」と考
えて購入する人がいてもいいと思う。しかし、食べ過ぎると「おなかがゆるく
なる」食品は、誰にでも安全な商品とはいえないのではないだろうか。■P&G「ミューズ」 <★1/2>
この記事はかなり短くまとめられているが、書かれていることは強烈だ。最後
のまとめ部分は以下の通りである。<「バイ菌と一緒に手のヒフ細胞も殺してしまう」というのはよくわからない
が、ミューズの殺菌力はそれほどスゴイということか。死者が出るような感染
症には、やはり買わざるをえない>これは使用を限定して商品を肯定する極致的文章である。ミューズのCMは、
「外から帰ったらミューズで手洗いをしてバイ菌を洗い流しましょう」と日常
的に使用することを勧めているのである。感染症の渦巻く環境での使用を限定
しているのではない。僕の周辺では、妻も含めた多くの知り合いがミューズの使用を中止したとたん
に、手荒れがピタリと直ってしまった。このことからミューズに関しては、「
バイ菌と一緒に手のヒフ細胞も殺してしまう」のを否定できない。CMでは子
供にも使用を勧めるような作りになっているが、大人が手荒れしてしまうもの
を子供にむやみに使わせるのは危険だと思うのだが。本書の筆者も、ミューズの日常的使用が危険であることを知っているようで、
【買ってもいい度】の星数が非常に少ない。危険と知りながらも商品を肯定す
るための苦肉の策として、「感染症時の使用」を持ち出さざるを得なかったの
ではないだろうか。しかし、はっきりと「日常の使用には不適当」と書いてく
れた方が嬉しい。真実を伝えることが商品批判につながってもやむを得ず、と
いうスタンスを取れないのはなぜだろう。■日本ハム「シャウエッセン特選ポークあらびき」 <★★★1/2>
<船瀬氏が「シャウエッセン」を食べてないのは明らかだ。あれこれ論じるの
は勝手だけれども、食品は本来食べるものである。車を論じるなら乗ってみな
ければわからないし、服は着てみなければ良さがわからないはずだ>一見、正論のように読めるこの文章だが、この場合には当てはまらないだろう。
問題にしているのはソーセージの味ではなく「添加物の使用」についてなので
ある。添加物はパッケージに表示してあるので、わざわざ食べてみるまでもな
いだろう。車の排気ガスを調べるのに、車に乗る必要がないのと同じことのよ
うな気がする。<発色剤というと、何となく不要なもの、余計なものを添加しているように聞
こえがちだが、亜硝酸ナトリウムを添加するのは肉の旨みや風味を引き立たせ
るのが本来の役目で、発色作用は副次的と考えてもさしつかえない>本書は巻頭に「当該の企業取材も可能な限り万全を期しました」と書いている。
巻末に記載されている取材協力した19社の中に、日本ハムも名を連ねている。ただの邪推なのだが書いておきたい。上記の文章は、どうも企業からの説明を
そのまま鵜呑みにして、掲載しているような気がしてならない。シャウエッセ
ンは発色作用を副次的に考えて添加しているのかもしれない。しかし、スーパ
ーの食肉売場に陳列している各種ソーセージ、ハム、ベーコン等がどれも発色
剤を副次的に使用しているのかどうかは、その色合いの鮮やかさを見ていて疑
問に感じる。肉の旨みや風味を引き立たせるためには、問題視されている発色
剤の添加以外に方法は全くないのだろうか?<(「買ってはいけない」は)本文中に「シャウエッセン」がひと言も登場し
ないのである。(中略)特定の固有名詞の見出しを大きく打ち、商標の鮮明な
写真まで掲載しておいて、内容は商品に触れない一般論というのは、普通の記
事では考えられない>まさにおっしゃる通り、正論である。この言葉を次に挙げる「ラリンゴール」
で、そのままお返ししなければならないとは・・・■佐藤製薬「ラリンゴール」 <★★★1/2>
僕はラリンゴールをうがいの常備薬として7年間使用していたが、「買っては
いけない」を読んだ後、怖くなって使用を停止してしまった。だから、本書で
はラリンゴールの安全性をどのように肯定するのか、とても注目していたのだ。
しかし、本文にはラリンゴールの文字がひと言も登場しないのである。まして
や、うがい薬の一般論も論じられてはいない。<うがいまで否定して本当にい
いのだろうか>という内容に終始しているのみである。ラリンゴールの成分の
危険性に対する反論も、一切なされていない。それなのに【買ってもいい度】
は★★★1/2である。これでは買ってもいいのか悪いのか、まるでわからない
のだ。憶測だが、この本は「買ってはいけない」人気に便乗して突貫工事で作られた
ゆえに、データの収集が間に合わず、このようなバラついた内容になってしま
ったのだろうか。前述のシャウエッセンとは筆者が違うとはいえ、同じ本の中
に矛盾があるのは嘆かわしい。■P&G「ジョイ」 <★★★>
この記事では「買ってはいけない」に、
{食器洗いに合成洗剤は必要ない。(中略)油汚れやカレーがこびりついた鍋
は落ちにくいが、粉せっけんを使えば落とせる}と書かれていたことを受けて、筆者が油汚れ落ちの実験を試みている。せっけ
ん、ジョイ、ウーロン茶の出し殻を使ってテストした。その結果、油汚れがよ
く落ちた順は、ジョイ、ウーロン茶の出し殻、せっけんだった。そして最後の
まとめは以下の通り。<渡辺雄二氏の推奨する粉せっけんは、残念ながら手に入らなかったことをお
詫びしておきます。やっぱりどこでも手に入るものになってしまうんだな>「買ってはいけない」に、普通のせっけんでは油汚れは落ちにくいと書いてあ
るにもかかわらず、粉せっけんが手に入らないからと普通のせっけんで実験し、
その結果、<せっけんはあまり頼りにならないという結論を下さざるをえなか
った>と書いている。この実験は粉せっけんを使用しなければ、汚れ落ちの優劣は決められないでは
ないか。このような意味不明な実験を行っている筆者がいくら化学データで反
論をしても、もう彼の言葉は僕の心に響かなくなってきた。■カルピス「ヌード」 <★>
<この「ヌード」という飲み物はおいしくない。水分を補給するのが不快なく
らい奇妙な甘みがするので、自信を持って世に送り出した人たちには悪いが、
おいしくないという理由で「買ってはいけない」(笑)>本書の中で一番愚かしく、腹が立った文である。この文章の前には「買っては
いけない」に科学的データで反論して商品の安全性を肯定しておいて、最後に
これである。誰も筆者の清涼飲料水のお好みなど聞いてはいないのだ。カルピ
ス社は「買ってはいけない」よりもこの記事を告訴したくなるに違いない。も
う踏んだり蹴ったりで、逆にカルピス社が少し可哀相になった。以上、本書の「買ってはいけない」のデータ批判以外の悪口部分をあげつらう
形になってしまったかもしれないが、不適切な表現が混入している文章は、非
常に読みづらい上に信頼性が激減してしまう。悪口的な文章を挿入する筆者は
10名中3名ほどで、それ以外の方は「買ってはいけない」に対して不必要な
中傷を避けて真面目に綴っていた。しかし、大半の記事はこの3名によって書
かれている。この本はこういうものだからと言われてしまったら一言もないのだが、真面目
に読んでいる多くの読者をこれ以上混乱させてほしくない。僕なんかに突っ込
む隙を与えないような明快な論理を展開してほしかった。本書の巻末に、化学専攻の大学院生4名の対談が載っているのだが、これはな
かなか良かった。「買ってはいけない」の化学データはデタラメだらけだと、
みんなで指摘しまくっている。「そんなこと言う人、よほど化学に無知なんですよ」
「いや、でも化学評論家って本人は言っている」
「僕だったら恥ずかしくて、そんなこと言えない」
「この人、応用化学出ているらしいですよ」(一同爆笑)なるほど、「買ってはいけない」の化学データは、彼らに言わせると間違いだ
らけだったのか。真実を知るために、今度は「買ってはいけない」の著者と専
門家たちとの直接対談が実現すれば、話は非常に早いのになと思った次第であ
る。本書は結果的に、僕にとって本書は「買ってはいけない」の真偽を明らかにす
るには、少々決定力に欠けてしまった感がある。しかし、商品を別の角度から
見ることが出来たという意味では意義のある本だったように思う。本書発売後も、「買ってはいけない」検証は、文芸春秋を中心に活発に繰り広
げられている。それに従って、次第に嘘・ねつ造疑惑が解明されつつあるよう
だ。真実が明らかになるには、もうしばらく時間がかかりそうだが、今後も動
向に注目していくつもりである。<END>