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★ ある悪いBARの傾向と対策  
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本日は、行くと腹立つ「悪いBAR」を1店、御紹介してみたい。そのBARは東
京都新宿区内の、とある繁華街のビルの1階にある。店の入り口はガラス張り
になっており、中の様子が覗けて、割と入りやすい雰囲気だ。テーブルチャー
ジを1000円取るだけあって、高級感の漂う落ち着いた内装に仕上げてある。

▼例1

以前当店で働いていた女性バーテンダーから聞いた話である。彼女のつき合っ
ている男がそのBARで働いており、彼女に直接話していたことなので、全て事
実だと思われる。

そのBARでは、メニューを見せてくれと頼まない限り、お客様にメニューを渡
さないそうだ。メニューを見ずに何をオーダーするかによって、お客様の実力
と、そのBARにおける適正を判断するらしい。酒類はモルトウィスキーに力を
いれており、オーナー以下、社員、アルバイトに至るまでスコッチウィスキー
の信者である。ウィスキーをオーダーされるのを手ぐすね引いて待っているよ
うなのだ。

カクテルも一通り作れるようなのだが(メニューには載っている)、オーダー
されると露骨に嫌な顔をするらしい。なんせスコッチ教の信者である。「カク
テルを飲むような客は客じゃない」と言っているそうだ。カルーアミルクをオ
ーダーされると「牛乳を切らしているので」と言って断ってしまうそうだ。

また、1杯のカクテルを時間をかけてゆっくり飲むのも許されない。バーテン
ダーにため息を漏らされ、店内が混み合って来たら追い帰しにかかるそうだ。

たとえウィスキーをオーダーしても、水割りで飲むことは許されない。半ば強
引にストレートやオンザロックを勧めるらしい。「水割りではこのウィスキー
の持ち味が生きませんから」とか何とか言うそうだ。このスコッチ教は水割り
を認めないらしい。

このBARはとても人通りが多い場所にある。BARの入り口はとても開放的で、
そうとは知らない人たちが、ついうっかり立ち寄ってしまう可能性が大いにあ
るのだ。誘い込んでおいてこの態度では、お客様は浮かばれない。憂鬱な気分
で店を後にする人も多いことだろう。


【語句解説と対策】

▽メニューを渡さない
「ゴリルカ(ウォッカ)のオンザロック下さい。え?置いてない。あれはズブ
ロッカの原酒で美味しいのになあ。じゃあメニューを見せて下さい」と言って、
メニューを持って来させる。ゴリルカはまずどこにも置いていない。下手をす
ると、ウォッカであることもわからないので効果的。

他に、オージェフーフカ(ウォッカ・甘めのナッティフレーバー)、ドールン
カート(コルン・ドイツ製スピリッツ)、チルラーゴアス(卵と山羊乳のリキ
ュール)などは、代替品も無いので他の酒をお勧めしにくく効果的。メニュー
を見た後、最初の注文と全く違う、本当に好きな酒を頼むと良い。

▽スコッチ教
スコッチウィスキーが好きなのか、スコッチウィスキーが好きな自分が好きな
のかを悟らなければいけない。

▽バーテンダー
お客様の好みにピッタリ合った飲み物を提供するのが、バーテンダーの仕事で
ある。それ以前に必要なのは、お客様を心から大切に出来る人間性である。

▽カクテルを飲む客は客じゃない
ウィスキーをグラスに注ぐだけなら、誰にでも美味しいウィスキーが用意でき
る。美味しいカクテルを作るには、経験と努力とセンスが必要。お客様のお好
みに合ったカクテルを作るのは、偏見家には難しい。

▽カルーアミルク
カルーアミルクはとても美味しい。低温殺菌牛乳で作ったり、生クリームを少
々加えると、更に美味しい。

▽追い帰しにかかる
ウィスキーを1:1の水で割ると(氷抜き)、プロがテイスティングする際の
飲み方が出来る。もちろんテイスティンググラスで供される筈。これをゆっく
り飲んでいれば、たぶん追い帰せない。

▽水割りを飲むことは許されない
水割りを否定するということは、日本のウィスキー文化を否定することである。


▼例2

当店の従業員S(女性)が、友人Tと2人でその「悪いBAR」を訪れた際にも、
同じ様な目に遭っていた。

Sはバーテンダーの勧めに従い、モルトスコッチウィスキーのオンザロックを
注文した。Tはお酒が弱い上に、ウィスキーがあまり得意ではなかったのだが、
バーテンダーがしきりにウィスキーを勧めるので、「ソフトな口当たりのウィ
スキーを水割りで」と注文した。Tに供されたウィスキーはワイルドターキー
だった。そして水割りとはいえ1:1の割合で作られた、とても濃いものが出
てきた。

ワイルドターキーは、バーボンウィスキーの中でもかなりクセが強く、アルコ
ールが50.5度と高めである。しかも1:1の水割りは、ダブルかそれ以上の
濃さである。Tの口に合わないのは一目瞭然の筈なのだが・・・。

Sが「これでは濃すぎて飲めないと思う」と言うと、バーテンダーはその水割
りをバースプーンで一口味見をして、「これくらいが美味しいんですけどねえ」
と顔を歪めた。そして当てつけるかのように、水が溢れそうなほどグラスに並
々と注いだそうだ。

その後、バーテンダーはTを無視して、Sにウィスキーのうんちくを延々と喋
り続けた。その語り口はまるで「教えてやってるんだ」と言わんばかりの傲慢
な態度だったという。おかげでSは友人と話をする時間を奪い取られ、空しく
腹立たしいひとときを過ごしたそうだ。


【語句解説と対策】

▽おすすめが口に合わない
バーテンダーに勧められた飲み物が口に合わない(好みじゃない)ときは、そ
の由をはっきりと伝えて取り替えてもらうと良い。良い店なら相手の方から、
「お取り替えしましょうか?」と言ってくる筈であり、悪い店なら、もう2度
と来ない店なので強気に出てみる。

▽ソフトな口当たりのウィスキー水割り
ライト&スムーズを謳っている、カナディアンウィスキーが飲みやすい。

「ケンタッキー州の蒸留所ではバーボンと水を1:4にして微妙なアロマ(香
り)を調べるらしいよ」と、もっともらしい嘘をつく。知ったかぶりのバーテ
ンダーなら「ええ知ってます」と見栄を張り、その結果ソフトな口当たりの水
割りが飲める。「そんな話は聞いたことがありませんけど」と言われたら、「
ケンタッキーの蒸留所で働いてる友人がそう言ってた。それ以上のことは知ら
ない」と誤魔化す。

▽喋り続けるバーテンダー
バーテンダーの話が迷惑なときは、「友人と大切な話があるので」とはっきり
言って引き下がらせる。もし近くで聞いているようなら、神妙な顔つきでしば
らくひそひそ声で話してやり過ごす。

▽最後の締め
帰り際に「とてもいいお店ですね。ぜひまた来ます」とおだてて、バーテンダ
ーの笑顔と心のこもった挨拶を導き出して、気分良く店を出る。そしてもちろ
ん2度と行かない。<END>
                         (1999年12月30日)

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