―――――――――――――――――――――
★ ガソリンスタンドのまぬけなサービス
――――――――――――――――――――― 
                             (2000年7月18日)

 7月某日。今日は行きつけのガソリンスタンドに、車の洗車とエンジンオイルの交
換に行って来た。このガソリンスタンドはサービス内容がコロコロ変わる。最初のう
ちは、変更は継続を考えて行うものだ、後のことをよ〜く考えてから変更してくれ〜、
と怒っていたのだが、最近ではもう慣れっこになってしまった。

 以前は洗車後に「お車の状態を御確認して下さい」だったのが、ある時から「ご確
認後、こちらの用紙にサインをお願いします」に変わった。なんでサインなんかしな
きゃならないんだ。

 このサインの意味は、洗車した者が手を抜かずに良い仕事をしているかどうかを上
司が後でチェックするためのものだろ? これじゃ当店でお客様がお帰りの際に、
「本日の従業員のサービスを思い出していただいて、御満足していただけたらこちら
にサインをお願いします」と言っているようなものだ。あほらし〜。

 だから僕は最初、この「相手の都合のための用紙」にサインすることを拒否してい
た。しかしそれだとスタンドの従業員との円滑な人間関係が保てない。相手が憮然と
してしまうからだ。何もわかっちゃいない従業員のその態度には腹が立つものの、僕
にとってはこのスタンドの「ムートン手洗い洗車」を失うのはとても辛いことなので、
次回からは妥協してサインすることにした。しかし、客からのクレームが多かったの
か、そのうちサイン制度は廃止された。

 その後、ガソリンを入れに行くと、今度はメニューを持ってきてこちらに渡して、
「何コースになさいますか」と聞くようになっていた。「何コースってなに?」と戸
惑いながらそのメニューを見ると、Aコース:ガソリンのみ Bコース:ガソリン+
窓拭き Cコース:ガソリン+窓拭き+灰皿・ゴミ捨て、などと書いてある。おまけ
に今まで、タイヤの空気圧を調べるのは無料だったのに、空気圧調整:100円、と
付け加えてあるのだ。

 またおかしなことを始めやがった。僕はそのメニューを見た瞬間、スタンド側が自
分たちが効率よく合理的に働けることだけを考えての変更であることを察知した。サ
ービスを何だと思っているんだ! 客をナメんなよ!

 「この変更はどういうことですか?」 「はっ? あっ、サービスを改善するため
に、このように変更しました」

 「何でいちいちメニューを見て何コースなんてお願いしなくちゃならないんですか。
ファストフードのオーダーじゃ無いんだから。これは今まで言ってたセリフを言わな
くて済む、そちらのためだけの変更でしょ。サービスの改善なんて言ってるけど、こ
れは改善じゃない。改悪ですよ。簡略化したせいで客に何か還元するわけ? ガソリ
ンが安くなったの? 何も変わってないんだ。それじゃこんなやり方、全然納得でき
ない」

 従業員はあからさまに憮然とした態度で、「でもお客様は皆様、わかりやすくなっ
たと喜んで下さっています」とのたまった。おおっ、ユーアーライヤー!

 「今まではそちらが、窓をお拭きしますか、とか、灰皿・ゴミはございますかって
聞いていたのが、この紙によって、こちらから窓を拭いて下さい、灰皿をお願いしま
すってお願いする形に逆転しているんですよ。なのに客に見返りは何もない。それっ
ておかしくないですか」

 従業員は答えなかった。顔を歪めてどこかへ行ってしまい、別の人がガソリンを入
れに来た。まったくもう、あほなスタンドだ。こんなところはボイコットするに限る。
この新制度にみんな怒ってほしいなあと思いながら、しばらくこのスタンドへは行か
ないことにした。数ヶ月後、そういえばあの制度はどうなったかな、と思って行って
みると、案の定、新制度は廃止され、今までのやり方に戻っていた。あたりまえだ、
まぬけ。

 いつの日からか知らないが、ガソリンスタンドはサービスが過剰である。最初は違
和感を覚えていた僕も、今ではすっかり当たり前のように感じてしまっている。みん
なそうだと思う。もし、これからサービスを簡略化するつもりなら、客に対して何ら
かのメリットがなければ、もはや客は納得できないと思うのだ。そのへんをよおく考
えてもらいたいものである。

 またある時、洗車をした後に「こちらのアンケートにお答え下さい」と記入を頼ま
れた。どうも全店を上げてのサービスチェック期間中のようだった。なるほど、どお
りでその日は従業員全員が、普段と違っていやにキビキビとサービス良く働いていた
わけだ。客のために働いているんじゃなくて、アンケート用紙のために働いていたの
ね。ああ情けない。でも世の中こんなもんだよね。

 もし本当にちゃんと良いサービスをしているかどうかを調べたいのなら、本社に郵
送できるアンケート用紙を各店に常設すればいいのに。こんなサービスチェック期間
を設けたら、その間だけ特に一生懸命働くに決まってらあ。

 よくファミレスなどのテーブルにアンケート用紙が置かれているが、通し番号が入
っていない用紙は、店員が捨ててしまうことが多いらしい。実際に捨てていたという
本人の話も時々聞く。大体、意見を求めておきながら、ペンが添えられていないこと
が多く、わざと苦情を書けないようにしているのではないかと僕は邪推している。

 アンケート用紙には、「お客様の御意見を今後のサービスの参考にさせていただき
ます」と書いてあるのだが、大体、客を従業員や料理の監視係にするなっつーの。各
店のサービスはその会社自身で強化してもらいたい。他力本願は良くないよ。これホ
ント。

 ところで、僕が最近気に入っているガソリンスタンドでは、職人風のオヤジが勝手
に車の窓を拭いてしまうのだ。拭くのが当然という感じで、何も聞かずに拭いてしま
う。これがなんかいいのである。

 そもそもスタンドで窓を拭いてもらうと、拭く前よりも汚れてしまうことが多いの
で、僕はいつも断ることにしている。よそのスタンドでは拭く前に必ず「窓をお拭き
しますか」と聞いてくるのだが、このスタンドではいきなり拭かれてびっくりした。
でも、窓拭きするのは当り前って感じなのが、妙に面白かったのだ。

 他店がどこでも画一的なことしかしない、言わない、マニュアル然としたサービス
なので、かえってこのスタンドのやり方にハマってしまったようだ。「灰皿・ゴミは
?」「はい3500円ね」という八百屋のような極めてシンプルなやり方に、僕は親
しみを覚えた。スタンドのあるべき姿を見たような気がした。僕にとってスタンドの
サービスは、これぐらいがちょうど良い。

 僕が住んでいる場所の周辺にはスタンドが多い。利用客数はいつも大体同じくらい
だろうから、おちおちしているとすぐに流行らなくなってしまう。売り上げが下がっ
たスタンドは、深夜の営業を止めたり、従業員を減らしたり、月1回のサービスデー
を隔月にしたりして対応しているようだが、その対応策が客減らしに拍車をかけてい
るのに気がつかなかったりしている。

 今後、どのような真っ当な方法で客を引きつけてくれるのか、ちょっとだけ楽しみ
にしながら、たまには各店を廻ってみようと思っている。 <END>