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★ ザ・レジ (The register)
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毎日、小売店や飲食店を利用しているが、レジで代金を支払うたびに大抵、良い気
分ではいられなくなる。多くのレジ係は、私は別にあなたに感謝などしていない、と
言いたげに、素っ頓狂な声で「ありがと〜(ご)ざいま〜〜す」と繰り返し発し、そ
して無感情に、機械的に、漫然と、気を抜いて、しかたなく、だらしなく、惰性で、
のどれか(3つ以上)でレジ業務を行っている。そんなレジ係に接するたびに、僕は心底がっかりしてしまう。レジはお客様から代
金をお支払いいただく大切な場所である。そこで感謝の気持ちを込めてきちんと接す
ることが出来なければ、多くのお客様に納得してはいただけない。レジ係は、自分の
サービスレベルに甘んじて、素顔をさらけ出している場合ではないのである。▼劣悪サービスレジ店員Xファイル
レジ担当店員は、なぜ杜撰(ずさん)な対応を平気で行うのだろうか。僕のXファ
イル(不可思議な未解決事件)によると、店員の考え方は次のどれかである。・私は一生懸命バッチリ働いている。
・私のサービスはかなり良い。
・私のサービスは優れているので、少々手を抜いても何の問題も無い。
・お客が商品代金、飲食代金を支払うのは当然のこと。愛嬌を振りまく必要など無い。
・お客は私の仕事ぶりなど見ていない。だから愛想を良くする必要は無い。
・私は先輩や同僚と全く同じように働いている。
・一生懸命働くことがどういうことなのか、よくわからない。
・なぜ一生懸命働かなくてはならないのか、よくわからない。
・一生懸命働くのはカッコ悪いし疲れる。
・こんな仕事で一生懸命働く気がしない。
・機嫌や体調の悪い時は、サービスが悪くなるのは当然だ。
・客が途切れずにやって来て頭にくる。報復措置として冷たくしてやりたい。
・客の態度が悪いから、私の態度も悪くなる。
・客にどう思われても気にならない。
・私は人に頭を下げるような人間ではない。店員はあくまで仮の姿だ。
・人間は平等のはず。私がペコペコするのは憲法違反だ。
このように、杜撰な対応を平気で行う店員は、様々な“自分に都合の良い”考え方
をし、その考えに素直に従い行動する。そして彼らの考えは、表情、言葉、仕草など
に表れ、お客をいたずらに刺激する。お客は不満に思っても、その気持ちを表面に出
すことは少なく、仕方なく知らん顔してやり過ごす。つまり店員の劣悪なサービスは、
客につまらぬ我慢を強いているのである。しかし店員はそんなお客の心中を察するこ
となく、次の客の神経を逆撫でる。愚かな繰り返しを続けるのだ。また、一生懸命働いている(と考えている)店員の中で、一生懸命さが独りよがり
な状況を、時々目にする。彼らは自分の業務をスピーディーにこなそうとするあまり、
接客がバタバタと忙しなく、かえって仕事が雑になる。これはお客のために急いでい
るつもりなのかもしれないが、お客には「そんなに早く帰したいのか」という印象を
与えかねないし、第一、目にうるさい。特に金銭の受け渡しは適度にゆっくり行わないと、釣り銭を受け取るお客は、お金
を落とさないようにとハラハラしてしまう。これでは何のための一生懸命なのかわか
らない。一生懸命とは、お客様に自分のサービスを納得してもらうための手段でもあ
る。お客様の心に届かない一生懸命は、一生懸命とはいえないのである。▼からなり教の信者
いつからか、どこの店でも店員は「(代金は)◯円に“なります”」「◯円“から”
お預かりします」「◯円のお返しに“なります”」と言うようになった。この言い回
しを聞く頻度は、僕の行動範囲内に於いて全体の90%を超えている。どうも店員た
ちは皆、「から」「なります」が丁寧で良い言い方だと信じているようだ。僕は、こ
んな「から」「なります」を平然と発している店員たちを、“からなり教の信者”と
呼んで恐れおののいている。僕は以前から、レジ係の「から」「なります」を聞く度に、激しく違和感を感じて
いた。こんなのちっとも良い言葉じゃない、これは間違った言い方、使ってはならな
い言い方だと思っていた。しかし、“からなり教の信者”はその後も爆発的に増え続
け、今日では信者ではない人に出会う方が難しい。たまに出会っても、「ちょうど
“お預かり”します」とか、釣りがあっても「1万円“頂戴”します」などと別の間
違った言い方をされて、がっかりしたりする。なぜ、「から」「なります」に違和感を覚えるのかというと、これらの言葉を使用
することによって、意味をわざわざ不明瞭にしているからだ。【(代金は)◯円になります】の意味は、「お客様にお支払いいただく代金は、商品
代(または飲食代)に消費税を加算した合計額◯円になります。」ということだろう。
この言い方は僕にとっては間怠っこしいが、まだいい。【◯円のお返しになります】は、「お客様からお預かりした□円から代金の△円を頂
戴しましたので、釣り銭◯円をお返し(すること)になります」という内容だ。これ
は「お返し」と「になります」の間に“すること”“させていただくこと”を挿入し
なければ意味が通じない。つまりこの場合「お返しになります」という言い方は成り
立たない。【◯円からお預かりします】は、「代金の△円を頂戴するため、◯円からお預かりし
ます」という内容である。△と◯に金額を当てはめてみると、「代金の400円を頂
戴するため、1000円からお預かりします」となり、「代金を貰うために1000
円から400円を店員が預かる」という何とも珍妙な意味になってしまう。この「◯
円からお預かりします」という言い方は完全に誤りで、「◯円から頂戴します」「◯
円から頂きます」と言わなければ意味が通らない。このような「から」「なります」を使わずに、もっとシンプルに「(代金は)◯円
です(ございます)」「◯円お預かりします(致します)」「◯円お返しします(致
します)」と言う方が、ずっとわかりやすく、筋も通っている。【(代金は)◯円です】「お客様にお支払いいただく代金は◯円です」
【◯円お預かりします】「代金△円を頂戴するため、◯円お預かりします」
【◯円お返しします】 「釣り銭を◯円、お返しします」
いかがだろうか。こちらの言葉には一点の曇りもない。
僕は丁寧語を聞いて違和感を覚えると、いつもその言葉の丁寧部分を取り除いてチ
ェックすることにしている。すると間違いか否かがたちどころにわかる。そこで、僕
が推奨する言い回しと、「から」「なります」言葉の丁寧部分を外して比較してみよ
う。・「(代金は)◯円です」→「(代金は)◯円だ」
・「◯円お預かりします」→「◯円預かる」
・「◯円お返しします」 →「◯円返す」
となるのに対し、「から」「なります」言葉では、
・「(代金は)◯円になります」→「(代金は)◯円になる」
・「◯円からお預かりします」 →「◯円から預かる」
・「◯円のお返しになります」 →「◯円の返却になる」
という普段絶対に使わない妙な日本語になる。どちらの言い方が正しいかは、一目瞭
然だろう。なぜ多くの店員は、「から」「なります」を使用するのだろうか。店によってはこ
の言葉を使うよう指導しているところもあるので、それで使うようになった人もいる
だろうし、また、この言葉の方が丁寧に聞こえる、もしくはこれこそが丁寧な言い方
だと思って自主的に使用している人も多いだろう。しかし、これだけ多くの人々に浸
透したのは、もっと別の理由があるのではないだろうか。僕の考えでは、「から」「なります」が、これだけ支持されているのは、あまり一
生懸命発しなくても、楽に言えて、何となく良い感じに聞こえる便利な言葉だから、
ではないかと思っている。試しに以下の例文を、声に出して比べてみてほしい。・「(代金は)5500円です」「(代金は)5500円になります」
・「1万円お預かりします」「1万円からお預かりします」
・「4500円お返しします」「4500円のお返しになります」
いかがだろうか。同じ言い方をすると「から」「なります」の方が、何となくきち
んと言っているような、ちゃんと仕事をしているような、一生懸命働いているような、
そんな感じがするのではないだろうか。その扱い易さが、多くの人に支持される最も
大きな理由ではないかと、僕は考えている。一方、「お預かりします」「お返しします」は、シンプルな言葉ゆえ、ごまかしが
きかない。よほど明るくはきはきと一生懸命発しなければ、生き生きとした良い言葉
に聞こえないのだ。しかし、だからこそきちんと発することが出来れば、簡潔なとて
も良い受け答えになり、「から」「なります」に違和感を感じている多くのお客様に、
納得していただけるチャンスが生まれる。現在すでに「レジ用語」として確立された観のある「から」「なります」だが、良
質のサービスを行うには、まず正しい日本語を話さなければ始まらない。多くの店員
が使用しているからといって、「から」「なります」が正しい日本語ではないように、
多数が行っていることは「突出」ではなく「平均的」だと認識し、自分のサービスを
常に見直す目を養い、磨いてゆくことが必要だ。良いサービスとは、付け加えていく
だけでなく、いかに削り取るか、ということでもあるのだ。▼お客様に納得していただくために最低限必要な応対方法
他店のレジでいつも気になるのは、店員がどのお客様にも全く同じ応対を繰り返し
ていることである。よほど全力で接していればそれでもいいのだけれど、十把一絡げ
な応対では、お客様に納得してもらうのは到底無理である。お客様は店員に、きちん
とした態度で接してほしい、と思っている。そしてその期待に答えるのが店員の務め
なのである。僕が実践しているレジでのお客様への最低限必要だと思われる応対方法は次の通り
だ。店内の遠くにお客様がいらっしゃる時は、変なアクセントの「いらっしゃいませ〜」
「ありがと〜ございま〜〜す」でもこの際、千歩譲って良しとしよう。しかしお客様
が会計のためにレジへやって来たら、後延ばし挨拶は止めて、正確なアクセントで
「ありがとうございます」と笑顔で発しよう。この時、声のボリュームに注意して、
適度な大きさで言うことを忘れないこと。レジでもなお「ありがと〜ございま〜〜す」
と大きな声で言ってしまっては、お客様には、店員が慣れと惰性と何らかの合図のた
めに言っているように聞こえてしまう。感謝の言葉を発しているのに、それが「お客
様お帰りで〜〜す」としか聞こえないのでは、意味がない。会計の際、笑顔ではきはきと「(代金は)◯円です」と言おう。代金を受け取った
ら、「お預かりします」ときちんと言おう。「◯円お預かりしま〜〜す」と言葉を無
駄に延ばさないこと。釣り銭は札の上下裏表を同方向にきちんと揃えて、「◯円お返しします」とにこや
かに手渡そう。クシャクシャの札や、他のお客様の財布の形状を記憶したお札はレジ
の一番下にしまい、なるべくきれいな札を使用しよう。その後、お客様の目を見て、もう一度爽やかな笑顔で「ありがとうございます」と
きちんと言おう。この時、声のボリュームに注意して、無駄に大きすぎないように言
うことを忘れずに(ここで不必要な大声挨拶をする人が実に多い)。この後、店の雰
囲気に合わせて、笑顔で「またお待ちしています」「どうぞお気をつけて」「またよ
ろしくお願いします」など、感謝の気持ちを込めて一言添えよう。出口に向かっているお客様の後ろ姿に向かって、もう一度感謝の気持ちを込めて
「ありがとうございました」と、お客様に届くように爽やかに言おう。そして次にお
待ちのお客様の方に「お待たせ致しました」と言う場合、この言葉は会計を済ませて
立ち去るお客様の耳に入らないように注意しよう。以上、簡単ではあるが、レジでの応対方法をまとめてみた。これらをきちんと良い
笑顔で、良いタイミングで、はきはきとした良い言い方で、声のボリュームが適性で、
感謝する心が伝わるように一生懸命はつらつと、キラキラと輝いて、一日中一定以上
のテンションを保って、決して手を抜かずに、繰り返し行うのは大変だ。とても一朝
一夕で習得できるものではないが、志を高く持って修練すれば、必ず良いサービスが
提供できるようになるだろう。 <END>
(2002年8月31日)
注)このコラムは加筆修正して拙著に掲載しました。本当は本に載ったコラムはHP
から全て削除しなければならない契約なのですが、拙著の予告篇として一つぐらい残
しておいてもいいんじゃないかという私の独断で、HPに残します。