■ いやっ!


当店の新人アルバイトの多くが、最初のうち「いやっ」と言う。これは僕が男女を問
わずさりげなくお尻を撫でたために発する嫌悪の声ではない。僕が質問した時の「No」
の答えを「いやっ」と言うのである。本来は「いいえ」と言うべきところで彼らは
「いや」とタメ口になってしまうのだ。

お客様に質問されて「いや」などと答えられてはかなわないので、彼らが「いや」と
言うたびに注意して早急に直すように言う。遅い子でも約1ヶ月後にはやっと「いい
え」と言えるようになるのだが、今回は女性アルバイトの1人だけなかなか直らない。

先日、その子が僕の問いかけにまた「いや」と言ったので注意した。彼女はすいませ
んと謝って仕事に戻った。少ししてその子がやってきて僕に言った。

「あのぉ、“いや”っていう言葉はないんですか?」

「なぬ? どういう意味?」

「店長は“いや”って言っちゃいけないって言いますけど、“いや”っていう言葉は
日本語にはないんですか?」

「なんだと!(ガビーーーン)……。“いや”って言葉はあるよ。でも“いや”では
タメ口になっちゃうんだよ。いや、わかんない。いや、違う。いや、やったことない。
みたいな? いや、わかりません。いや、ございません、じゃおかしいでしょ? い
いえ、って言う方が丁寧な言い方なんだよ」

「ホントだ。わかりました。ありがとうございます」

「今まで何度も何度も説明したのに、わからなかったの?」

「はい……。わかりませんでした」

「だったら聞き返して。何で使っちゃいけないかわからなかったら、そりゃ直らない
よね。これからは疑問はその場で解決していこうよ」

いやはやびっくり仰天だ。「いや」については丁寧に説明していたつもりだったが、
まさか理解できない子がいるとは知らなかった。次回から気をつけよう。

「いや」を「いいえ」に直したら、今度はお客様の問いに「No」=「いいえ」と言わ
ずに受け答えを成立させる言葉づかいを教えなければならない。言葉の勉強はいつま
でも続く。

                             (2006年3月11日)




※このコラムの無断転載、無断使用を禁じます

ヤBACK