■ 「 サービスは勝負だ! 」
先日、某老舗デパートの食料品売り場へ買い物に行った。和食総菜屋で順番を待っ
ている時、妙な光景を目にした。それは、お客さんが皆ものすごく愛想が良くて、一
方、店員たちは皆ニコリともせずに、お客に冷た〜い接客を繰り返していたのだ。
お客「あっ袋に入れてもらわなくていいわ〜(ニコニコ)。こっちに入るから。その
まま下さいな。あっどうもすみません(ニコニコ)。ありがとうございます。どうも
〜(ニコニコニコニコ)」店員「(ニコリともせず無愛想に淡々と)はい、ありがとーございまーーす」
だめだこりゃ。僕は下唇をベロンチョした。サービス提供者は、いついかなる時も絶
対にお客様に負けてはならないのだ(きっぱり!)。普通のお客様には丁寧に、丁寧
なお客様にはより丁寧に、ものすごーく丁寧なお客様には、ものものすごすごーく丁
寧にサービスを行わなければならない。そうしなければお客様とバランスがとれない。
この気持ちをきちんと持って、お客様がいつも快適に買い物ができるように努めるの
が、サービス提供者としての真っ当な仕事なのだ。店員がなぜ平気でお客様に負けるような(完敗だぞ)サービスを行うのか? それ
は、自分の姿が相手にどのように映っているのかを知らない。人当たりの良いお客様
ほど店員の本質(やる気がない、サービス力が低い、賢くない等)を正確にズバッと
見抜いてしまうことを知らない。一生懸命働くということがどういうことなのかを知
らない。自分を日々向上させていかなければならないことを知らないからだ。
当店では従業員に常に一生懸命働くことの必要性、重要性を、いつも口が酸っぱくな
るほど言って聞かせている。おかげで僕の顔は酸っぱさに耐えている情けない顔つき
になってしまった。従業員は最初、皆、自分は一生懸命働いていると思っている。しかしそれはたいて
い、偽物の一生懸命だ。彼らの一生懸命働くという気持ちの前には、いつも「自分な
りに」という言い訳がくっついている。で、僕は説明する。
「相手の方が、君が一生懸命尽くしているように感じなければ、それは一生懸命働い
ていないのと同じ。どなたにも伝わる一生懸命が本当の一生懸命なんだ」
一生懸命というのは『命がけで物事をすること。全力をあげて何かをするさま(三
省堂提供「大辞林 第二版」より)』という意味である。僕は彼らの仕事ぶりが、本
当の一生懸命からいかにほど遠いことかを説明し、負荷をかけ、圧をかけ、本当の一
生懸命を教えこむ。最初は皆、戸惑い、落ち込む。それは自分の一生懸命がとるに足らないレベルだっ
たことに愕然とする場合もあるだろうし、なぜそこまで一生懸命働かなければならな
いのか疑問を抱く者もいるだろう。でもそれはしょうがない。本当の一生懸命を知ら
ないんだから落ち込んで考えてもらうしかない。その後、考えの甘い者は脱落し、意
欲のある者は懸命に努力して一生懸命働くことを習得する。僕は、サービス提供者がいま何を考えてそれを行っているのか、その心の動きが手
に取るようにわかる。彼らの心には邪念が渦巻いている。それを言い当てて相手を驚
かせ、ではどういうことをするべきかを教えている。相手は心を読まれてしまったか
ら、僕の指摘に返す言葉もない。ひたすら努力するハメになる。こうして彼らは見違
えるように成長する。つまりこれから良いサービスを提供していくことができるスター
トラインに立てたわけだ。そしてようやく、長くて厳しいサービス道の勉強が始まる。
(2005年12月9日)
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