ラモス大統領の入院で分かった後継者問題

(1997.01.19)

 フィリピンのラモス大統領は昨年12月末、軽い脳梗塞のため、緊急入院し、手術を行った。手術は成功し、68歳のラモス氏は歩いて病院を出て健在ぶりを示した。だが、緊急入院のニュースが駆け巡ったマニラ証券取引所の平均株価は即座に2%下落し、外国為替市場も1.3%のペソ安ドル高となった。

 このことはつまり、ラモス大統領の存在が、いかにフィリピンの経済発展にとって重要かということを示したことになる。(フィリピン政府が、大統領が倒れた際の緊急的なイメージ維持策に失敗したという側面もあったようだが) ラモス氏が再起不能になったりすれば、政策上、かなり混乱することは間違いない。

 マレーシアのマハティール、インドネシアのスハルト、ペルーのフジモリ、台湾の李登輝、ロシアのエリツィンなど、その国の安定や経済成長を一人で背負っているタイプの政権が、世界各地に散見されるようになってきたが、フィリピンのラモス氏も、その仲間入りをしたといっていいだろう。(蛇足だが、日本の橋本氏もそういったタイプの政治家になることを狙っているようだ。他国の例でみる限り、力強いリーダーの一人背負いは、国民に自信を与え、経済再起につながるかも知れないからだ)

 一方、ラモス氏の緊急入院で、これまで以上に取りざたされるようになったのが、後継者の問題だ。フィリピンでは大統領の任期は一期5年間で再選はできないと憲法で規定されている。改憲をしない限り、ラモス氏の任期は1998年までで、あと1年あまりしかない。(改憲の可能性もあるが)

 そして、次期大統領の座を狙う後継者の一人と目されているのが、副大統領のエストラーダ氏(俳優出身)である。だが彼は、全体の経済発展より国民の間の富の不均衡を平等にすることを重視する「ポピュリスト」だとの評判である。フィリピンの選挙は、大統領と副大統領を別々に選ぶ仕組みになっており、大統領と副大統領の政策は必ずしも一致していない。

 フィリピンには、まだ貧しい人がたくさんいて、現在進行している経済発展の恩恵にまだあまりあずかれないでいる。彼らはラモス氏の経済自由化政策は、自分たちの生活水準をむしろ下げていると感じており、エストラーダ氏の平等主義はそういった人々には受けがよい。逆に、マニラで少しずつ増えつつある中産階級や、中小企業の経営者、財界人、外国企業の間では、エストラーダ氏の評判はあまり良くない。

 ラモス氏が、自分の任期の後も経済自由化政策が続いてほしいと思うなら、エストラーダ氏以外の、改革派の若手政治家を自らの後継者として、早く育て始めなければならない。彼に残された時間は、もうそれほど長くはないからだ。



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