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カダフィ恩赦の裏に均衡戦略?

2003/08/27


リビアのカダフィが「国際社会」に戻ってくることになった。1988年のスコットランド・ロカビーでのパンナム機墜落事件にリビアが関与したことを認め、犠牲者に対して補償金を払うことで、国連がリビアに対する経済制裁を解除する、という方向で話が進んでいる。

しかし、私の感覚では、パンナム機墜落事故はリビアによる犯行ではない。事故が発生してからの約2年間、捜査線上にリビアという名前は全く出てきていなかった。その後、リビアとアメリカなどとの関係悪化にともない、リビアにテロリスト国家の汚名を着せるために、ロカビー事件といえばリビア、という「常識」が作られた。

こうした経緯をきちんと把握しているイギリスの国会議員は、今回リビアがロカビー事件への関与を認めたことについて「カダフィは経済制裁を解除してもらうために『ビジネス契約』として犯行を認めたのだ」と言っている。つまりリビアは犯行にかかわっていないが、私がやりましたと言うことで、国際社会に入れてもらえるような話が欧米側とついている、ということだ。

Lockerbie 'a business deal'
http://www.news24.com/News24/World/News/0,,2-10-1462_1403266,00.html

この線で考えると、おそらくロカビー事件で死傷した被害者・遺族への補償金の支払いのお金の出所も、リビアそのものではなく、英米であろう。もしくはリビアの石油が少し高めに売れるようにして、その差額が補償金になるとか。

この「ビジネス契約」を聞きつけて、フランスがあわてて「俺たちにももっと払え」と言い出した。ロカビー事件だけではなく、1989年にフランスの旅客機が墜落した事件(170人死亡)でもリビアが犯人とされたが、この事件の遺族たちにはリビアは3300万ドル(1人あたり20万ドル)しか払っていない。これに対し、ロカビー事件(270人死亡)では今回リビアは27億ドルの補償金(1人あたり1000万ドル)を払うことになっている。

Lockerbie resolution expected Monday as France threatens a veto
http://sg.news.yahoo.com/030818/1/3dhbj.html

おそらく、最初にこの話を持ちかけたのはカダフィの側ではなく、欧米側、特にアメリカであろう。カダフィの側でこのようなことをやろうとしても、テロリストに厳しい態度をとると言っているアメリカが裏で態度を変質させない限り、実現しない。

今回の話の本質は、アメリカの方からリビアに話を持ちかけ、カダフィを国際社会に復活させようとしている、というものであるように感じられる。しかし、なぜアメリカはカダフィを活性化させる必要があるのか。

一つ考えられるのは、パレスチナ和平(ロードマップ)が暗礁に乗り上げていることとの関係だ。カダフィは、アラブ民族主義の英雄であるエジプトの故ナセル元大統領の「後継者」を自認している。カダフィは弁舌もうまく、アラブ人の心の隅に追いやられているアラブ統一の夢をかき立てる存在になりうる。今後カダフィが「テロリスト」の汚名を返上し、国際社会に復活してくれば、それによってアラブの団結が促進される可能性がある。カダフィが音頭をとり、アラブがイラク復興や中東和平に協力すれば、イラクとパレスチナという、アメリカが抱えている問題の解決にプラスに働く。

米国内的には、こうした問題の解決方法は、国務省など中道派にとって好ましいもので、逆に国防総省やタカ派、ネオコンにとっては潰したいものだろう。そう見ると、今回の問題も「中道派対ネオコン」の文脈でとらえることができる。カダフィを復活させることで、イスラエルやネオコンをへこまそうという「均衡戦略」である。

また、中東世界とヨーロッパ世界を包含する地中海共同体へと発展することを模索しているEUにとっては、カダフィを取り込むことで、アラブ側との和合という面で大きな前進となる。

FTは「これは外交の勝利だ」と書いているが、こういう解説記事が出るのも「がんばれ中道派」的な感じがする。

Editorial comment: Engaging Libya
http://news.ft.com/servlet/ContentServer?pagename=FT.com/StoryFT/FullStory&c=StoryFT&cid=1059479033064&p=1012571727269

「拡大EU」としてアラブ世界との融合を考えているEUは、東南アジアと東アジアを融合させようとする中国中心の「アセアン・プラス3」の考え方と同じである。非米同盟的なやり方である。アメリカの中でも中道派(多極主義者)はこれを支持していると思われるので、厳密には「非米」ではなく非「一強」同盟なのだが。

そこで思いついたのだが、もしかするとネオコンは多極主義者の「スパイ」なのかもしれない。ネオコンが無理矢理アメリカを単独でイラク戦争の泥沼に引っ張り込み、その結果、世界の国々はアメリカを敬遠し、アメリカを中心とした一極世界ではない地域ごとの多極世界を模索する方向に進んでいる。アメリカがイラク戦争の泥沼にはまり込むほど、その方向が進む。その結果、極限的な一極主義を目指していたはずのネオコンが実現するのは、多極的な世界だということになる。話が飛躍しすぎていて、自分でも半信半疑の仮説ではあるが。

2003/08/27(水)



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