香港からの手紙・返還控えイヤ〜ナ感じ

97/02/16

 このホームページの文書を読んでいる方の一人に、香港在住12年になる方がいる。その方は時々、作者に生の香港情勢についてレポートを送ってくださる。ここでは、その一つについて紹介する。

(以下、引用)
 香港では返還を控え、さすがに空気が違ってきています。こんな空気は1985年に来港して以来初めてです。俗に言う「イヤ〜ナ感じ」であります。不動産はこれでもか、というぐらいに高騰し、庶民などが買える金額などではなくなってしまいました。
 特に(日本円にして)1億円を超す高額物件の値上がりは異常です。毎週10%−20%も上がる物件があり、新築の売り出しなどでは、黒社会(香港の暴力団)が暗躍する、キナ臭い街となってしまいました。

 わが家にも不動産屋から「売れ、売れ」のチラシが毎日山のように舞い込みます。香港政庁もさすがに、ローンの借り入れ限度額を抑えるなど、対抗措置を発表していますが、相手は大陸の国営企業の出先機関で、ダミー会社を死ぬほどつくり、抽選の確率(新築のマンションなどは抽選をする)を上げるためには何でもやるという、ナリフリ構わぬ営業(?)態勢。政庁がローンを制限しても、彼らは現金で買うので、なんの影響もおとがめも受けないという、まさに完全になめられ状態にあります。

 金を持ってるやつがエライという香港の信条そのままに、ゴリゴリ突っ込んで来るのはいいけど、華南、特に広東省の人間は着るものに信じられないくらい無頓着で、「少しはマシな服を来てこい!」と言いたくなる状況です。
(ここまで引用)

 これを読んで作者がまず感じたのは「んん、この状況はどこかで見たことがあるぞ」ということだった。そう、バブル真っ盛りのころの、東京や大阪の不動産業界とそっくりなのだ。
 作者はそのころ、京都と大阪で記者をしていたのだが、「黒社会」の人々がゴリゴリ突っ込んでくるキナ臭い街だったことは、マンガ「なにわ金融道」などで紹介されているとおりだ。(彼らはフツーの人よりマシなスーツを着ていたが)

 ということは、さらに考えると、香港の不動産市況も、いずれ日本のように、バブル崩壊で急落するのではないか。こう書くと、専門家の方々から「中国経済は日本のように成熟していないから、簡単には崩壊しないんですよ」と言われそうだが、んーそうかな。日本経済だって、あのころは天井知らずだと思われていた。

 もう一つ、香港の不動産は誰が買っているのか、という点だが、英文記事などでは、最初は「中国の国営企業のダミー会社が買っている」との指摘が多かったのに、その後「いやいや、返還後も香港経済は大丈夫だということを察した香港人が買っているのだ。不動産市況の上昇こそが、将来展望の明るさを象徴している」などという論調が増えてきた。
 だが、作者は、このメールを送ってきた読者の実感が正しいと思う。中国企業のダミー会社が「黒社会」を使って(もしくは黒社会の人々が中国企業に高い土地を売り込んで)、いやーな感じを醸し出しているのだと思う。

 中国企業が香港の不動産を買いあさるのは、返還後にもっと高く転売できるという、投機的な読みからだろう。(それがバブル経済でないなら、何と呼ぶか?)中国企業のそうした動きを見て、香港の人々の中にも、それなら中国企業に高く売ってやれ、という商魂があるのだろう。また中国では、預金・国債の金利や株式投資の環境が当局によってかなり規制されているので、儲かる投資がしにくい。そのことも、大陸から香港にカネが流れてくる背景となっている。

 ところで、日本のマスコミでは、香港の将来は明るいという見方が多いようだ。だが作者は、6分4分ぐらいで暗い結果になるのではないかと予測している。新行政長官の董建華氏は人柄や能力が優れた人らしいが、それでもなお、いやーな感じの不安は消えない。
 日本は、中国から国家の基礎となるものをたくさんもらったのに、戦争の時はひどいことをしたという、歴史的な引け目があるせいか、日本のマスコミは、中国を見る目が曇りがちだ。批判せよというのではなく、中国がどのようなメカニズムで動いているのか、ほとんど伝えていないということだ。香港の状況についても、日本の新聞やテレビを見るとき、本当はどうなっているのだろう、と前向きな懐疑心を持って接するのがいいと思う。中国を尊敬すればこそ、である。



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