中国でもイベントバブル 96/06/25

 このところ中国では、経済発展の影響で、全国各地でいろいろな展示会、商品コンテストが開かれているが、山東省の新聞「大衆日報」が5月末に報じたところによると、中国政府の国務院は最近、国営企業がこれらのイベントにあまり参加しないよう、通達を出した。その理由は、イベントに参加するという名目で、企業幹部が会場となる都市に出張に行き、実際の参加はそこそこに、あとは宴会、観光、買い物、果ては売春に走っているからだという。

 この通達が出された影響で、山東省で最近開かれた「中国新技術成果博覧会」には、当初100以上の企業、研究所などが参加を申し込んでいたが、開会直前に通達が出されたためキャンセルが相次ぎ、実際に参加したのは20を少し上回る程度に激減してしまった。会場の山東省科学技術館では、3棟の建物のうち1棟しか使わず、5日間を予定していた展示会の期間も、4日間に短縮された。

 かつて純粋社会主義だった時代の中国では、全国会議などは観光地や温泉などで開かれることが多かった。これは、国営企業などの幹部に対する、上部組織や中共中央からのねぎらいのプレゼントの意味があった。会議という名目があれば、「社会主義の実現に向けて頑張ることを怠り、遊んでばかりいる享楽主義者だ」などと言われずに、骨休めができるという仕組みだった。

 時は下り、今は「社会主義市場経済」の時代。国営企業の多くが深刻な経営難に陥っている。だが、企業幹部はやっぱり以前のような骨休みがしたい。そこで考えられたのが、展示会などへの参加だったのである。

 国営企業が生き延びるには、自社の商品の質を高め、外資との合弁企業の商品に太刀打ちできるようにすること求められているが、「他社製品を見て市場調査をしてくる」「自社の製品を売り込んでくる」などと言って展示会などに参加すれば、十分に自社のために役立つという名目が立つわけだ。

 この記事によると、通達が特に抑制するよう求めたのが、品評会への度重なる参加だった。最近では、純粋に商品の特性などを比較して評価するのではなく、裏で金を多く出した出展者の商品を入選させるような品評会も多いという。この結果、たとえば山東省の各地で作られている老酒(アルコール度数の高い高級酒、中国語では「白酒」)のほとんどが、ビンに「国際大賞授賞製品」「国家金賞授賞」などといったラベルが貼られている状況が産み出された。記事は「賞の乱発により、人々の多くが賞の権威を疑うようになっている」と指摘している。

 一方、中国で展示会などのイベントが多く開かれるようになった理由は、開催による宿泊などの経済効果を狙う以外に、不動産開発ブームの影響で、あちこちの都市に会議場やイベントホールが建設され、それらの有効活用を狙うということもある。今回の通達は、それを難しくするものだが、中央が地方をねじ伏せるのが簡単でない中国では、大した影響がないのかもしれない。

 中国では最近、建設したビルにテナントが集まらず、バブル崩壊後の日本と似た状況が生まれており、イベントを開かないと開発投資を回収できないという問題もある。展示会やイベントの乱立は、東京都の都市博中止問題などが起きている日本だけのことではないというのは興味深い。