世界こぼれ話(1月下旬版)2000年1月27日 田中 宇私が日々、世界のニュースサイトを見ていて驚いたニュースを短信にして、4本お送りします。
ビデオを3倍速で回し「不可抗力」を演出していたNATOアメリカ軍のハイテク技術は、敵を倒すためだけにあるのではない。「世論」や「マスコミ」という、内部の潜在的な敵の目をくらますためにも存在している。そんなことを思わせる出来事を、以下に紹介する。 昨年4月12日、NATO軍としてセルビアの空爆に参加したアメリカの戦闘機が、セルビア南部の町グルデリカ(Grdelicka)の郊外にある鉄道橋を爆撃した際、ちょうど通りかかった列車まで爆破してしまい、少なくとも乗客14人が死亡した事件があった。 事件の翌日、ブリュッセルのNATO本部で記者会見が行われ、爆撃の際に戦闘機から撮られたビデオ映像を上映しつつ、鉄橋に近づいていた列車の速度が速かったため、戦闘機のパイロットが列車に気づいた時は、もうミサイルが発射され、遠隔操作で進行方向を変えるのも間に合わなかった、と説明し、不可抗力があったと弁明した。 これに対してセルビア政府は「列車の爆破は、一般市民を殺傷してセルビアの戦意を削ごうとする目的で、故意に行われたものだ」と主張し、一般人を殺したNATOを非難したが、セルビアを悪者扱いする多くの欧米(や日本)のメディアは、NATO側の主張に沿って報道した。 ところが、去る1月8日にアメリカの各紙が報じたところによると、この記者会見で「不可抗力」の証拠とされたビデオ映像は、実際の3倍の速度で上映されていたことが分かった。実際は、空爆された列車は、記者たちが見せられた3分の1のゆっくりした速度で、鉄橋に近づいていたことになる。 パイロットの判断が間に合わなかったという可能性は低くなり、その分、セルビア側の言い分が正しく、NATOが「列車まで爆破しても良いから、鉄橋を空爆せよ」とパイロットに命令していた可能性が高まった。 NATOは、3倍速回しをしてしまった理由について、内部の情報分析担当者がビデオを見る際は、効率アップのために3倍速回しを使うことが多く、そのやり方を、記者会見のときに間違ってやってしまった、と説明し、列車の速度が3分の1だったとしても、パイロットは即座にミサイルの標的を変えられなかっただろう、と主張している。
▼参考にした記事など
飢餓と食べすぎが12億人ずついる地球世界の人々のうち、12億人が貧困のため栄養不足に陥っている一方で、別の12億人は食べすぎの状態にある・・・こんなレポートがアメリカで発表された。「ワールドウォッチ」というNGOが、世界中のいろいろな研究調査機関による、人々の栄養状態に関する報告書をまとめて作った「State of the World 2000」というレポートである。 それによると、アメリカでは国民の55%が太りすぎの状態にあり、他の先進国でも55−60%前後が太りすぎになっている。それ以外の国でも、肥満の割合は、ブラジルが31%、コロンビアが43%などで、中国では過去3年間で、肥満の割合が国民の9%から15%にまで増えた。 一方、たとえばインドでは、裕福層には肥満が多い半面、貧困層の人々の多くは栄養不足の状態で、インドの新生児の6割は、もしアメリカで生まれていたら、保育器に入れるなどの集中看護が必要な状態で生まれてきている。栄養不足の人が世界で12億人というのは、過去最大の数である。 また、栄養不足の状態で生まれてくる発展途上国の子供たちの8割は、国全体でみると食糧が余っている状態の国で生まれている。つまり栄養失調になる原因は、食料不足が起きているからではなく、貧富の差が縮まらず貧困であるためということになる。
▼参考にした記事米軍の新兵器:弾が曲がって飛ぶ銃ここ数年、アメリカの世論は、自国の兵士を海外の戦場に出兵させ、危険にさらすことに対し、消極的になっている。昨年のコソボ紛争で、NATO軍として参戦した米軍が、空爆は繰り返すものの地上軍を投入しなかったのは、その一例だ。 ロサンゼルスタイムスによると、米軍は、そんなジレンマを乗り越えるための新しい銃を開発中だ。これまで地上軍の兵士が持つ自動小銃などは、銃弾がまっすぐしか飛ばないが、新しい銃は、発砲の際、銃身からレーザー光線を発して銃弾の進む方向をコントロールし、飛んでいる弾の方向を途中で曲げることができる。 これによって、建物の陰や塹壕の中などに隠れている敵に、弾を当てることができるようになるという。弾は、標的の直前で爆発し、金属の破片が飛び散るようになっている。周辺にいる敵の体に金属片が刺さり、殺傷する仕掛けだ。 レーザー技術と、コンピューターを使った弾の誘導技術という、アメリカのハイテクの粋を集めて開発されているこの新型銃は、数年後には実戦配備される予定だが、いくつかの問題点も指摘されている。 一つは、ずぶぬれになったり、泥まみれになる戦場の環境でも、新兵器が故障しないかという懸念である。また、現在の米軍で主力となっている自動小銃のM16が4キログラムであるのに対し、新兵器は8.5キロあるという、重さの問題もある。価格も、M16が日本円換算で6万円以下なのに対して、新兵器は100万円以上する。 これらの問題は、新兵器が実際に戦場で使われて「実績」をあげ、大量生産されれば解決されるだろうが、そうなると今度は、この武器がテロリストなどの手に渡り、アメリカ人を標的にして使われたらどうするか、という心配が出てくると予測されている。 【後日談】この記事を配信した後、銃のことにお詳しい読者の方から、ここで紹介した兵器は、銃の業界や専門誌などでは、全く話題になっていない、という趣旨のご指摘をいただきました。もし、この種の新型銃の採用が近いのであれば、専門誌などで特集を組むと思われるので、私が書いた上記記事の情報の元となったロサンゼルスタイムスの記事そのものが、誇張して書かれた可能性もあります。
▼参考にした記事など近親婚の伝統を改善したいサウジアラビアイスラム教の預言者ムハンマド(マホメット)の娘は、従兄弟と結婚したという。それ以前から続く伝統として、サウジアラビアでは、自らの氏族の中によそ者を入れることを防ぐため、親戚どうしで結婚する場合が多い。だが、長く続いた近親婚のマイナス面が、問題視されるようになっている。 この問題を報じたワシントンポストによると、サウジアラビアでは、近親婚が多いことからくる病気や死産が多い。サウジでは、結婚する人の55%は近親婚であると概算されている一方、新陳代謝系の病気(metabolic diseases)が発生する割合は、近親婚が少ない国に比べ、20倍になっている。地中海貧血(thalassemia)、鎌状赤血球貧血(sickle cell anemia)、糖尿病などの病気が多いのは、近親婚の影響によると考えられている。 サウジの大学では、教授たちは授業が終わった時の学生の疲れ具合を見て、その学生がどの氏族や地方の出身であるか、判別できるという。いくつかの地方の氏族に、特に近親婚の影響による病気が表れやすいからだ。 これまでこの問題はタブー視され、サウジ国内でほとんど改善策がとられることはなかった。だが最近になって、大学病院などで調査が進み、政府も近親婚がもたらすマイナス面を人々に警告し始めている。新聞には、近親婚の結果、何人子供を産んでも死産になってしまう夫婦の話などが、記事として掲載されるようになった。 サウジで近親婚が多いのは、氏族ごとに団結している社会的な伝統のほかに、結婚の際に新婦の家が新郎の家に持参金を贈らねばならない制度も一因となっている。同族内の結婚なら、持参金は要らないからだ。また、未婚の男女が公の場で親しく話をすることを禁じるイスラム社会の決まりや、親が子供の結婚相手を決める伝統も、背景にある。 とはいえサウジ政府は、同族以外の相手と結婚することを勧めることで、近親婚を減らしたい一方で、外国人とサウジ国民との結婚が増えることには警戒している。サウジは石油収入で成金的に豊かになった国であるため、中東全域や南アジアから、多くの出稼ぎ労働者が働きに来ている。彼らとサウジ国民との婚姻が増えてしまうと、誇り高きサウジの伝統が守られなくなってしまうという懸念がある。
▼参考にした記事など
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