ソ連復活はありえるか:ロシアとベラルーシの統合99年1月19日 田中 宇 | |
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西ヨーロッパの通貨統合が世界の注目を集めている中で、同じヨーロッパでも東の端では、もうひとつの通貨統合が、世界からあまり注目されないままに、実現に向けて進んでいる。ロシアと、そのとなりのベラルーシの通貨(名称は両方とも「ルーブル」)を、早ければ今年3月に統合しようという計画である。 こちらの統合は、西欧諸国の統合よりも、ずっとテンポが速い。西欧では、経済統合の先にある政治統合が実現するのがいつになるか目処が立っていないが、ロシアとベラルーシは、早ければ今年中に政治統合まで行ってしまおうという構想が浮上している。 両国の統合構想を最も強く推進しているのは、ベラルーシのルカシェンコ大統領だ。ルカシェンコ氏は共産党系の人物で、1994年に大統領になって以来、社会主義時代と似た計画経済の政策を続けている。同氏の夢は「ソ連邦を復活する」ことであり、その第一歩が自国とロシアの統合であった。 ロシアとベラルーシは、同じスラブ系の人々が多数派となっており、民族的に近い存在だ。歴史的にも、ベラルーシの大半がロシア領に入っている時代が長かった。社会主義時代には、ロシア共和国と白ロシア共和国という、別々の行政地域であったため、ソ連邦の消滅後は、別々の国家となった。 ●統合は民族意識を高揚させる ソ連崩壊後、両国とも国家運営がうまくいっているとは言いがたい。ロシアは昨年8月に通貨が暴落し、欧米投資家から見放された。12月にアメリカがイラクを爆撃した際は、ロシアは国連の場で強く反対したものの、欧米や日本などからほとんど無視され、国際社会での威信の低下が明らかとなった。 意気消沈しているロシアの人々にとって、ベラルーシとの統合は、民族意識を高揚させるかっこうのテーマであり、その意味でエリツィン大統領らロシアの政治家にとっては、政治への不信感を国民に忘れてもらえるかもしれないという利点がある。 一方、ベラルーシの経済状況はロシアよりさらに悪い。ルカシェンコ大統領は、ベラルーシをソ連亡き後の社会主義国のモデルとすることを目指しているが、現実は悲惨なものだ。配給と行列、モノ不足、収入減、インフレなどが人々を苦しめている。 景気を良くするためにお札を刷って政府の事業を進めたが、それによってインフレが激しくなると、価格統制を強めた。その結果、手に入りにくいものは闇市場に回って高く売られるようになり、物流を管理している役人の腐敗がひどくなった。農村は自給自足体制が続いているため、ルカシェンコ氏の人気は農村で高いものの、都市部では政府への不信感が高まっており、大統領は野党政治家への弾圧を強めている。 アメリカとIMFは、ルカシェンコ政権のやり方を嫌っており、IMFは昨年、ベラルーシへの資金援助を事実上、打ち切ってしまった。そんな行き詰まりの中で、ロシアとの統合は、ベラルーシにとっても希望の持てる構想となっている。 両国の統合構想には、ベラルーシがロシアの石油や天然ガスをロシアの国内価格で買えるようにするという案も含まれている。ロシアの石油などは、輸出価格より国内価格がはるかに安く抑えられているため、ベラルーシのエネルギー不足の解消に役立つ。 ●アメリカは統合に反対 ロシアにとって、ベラルーシとの統合が進むことは、ロシア軍がベラルーシとポーランドの国境まで進軍できることを意味している。ポーランドなど東欧諸国では、アメリカと西欧の軍事同盟であるNATOへの加盟を進めている。ベルリンの壁崩壊以降、東欧が「西側」に組み込まれていく流れの仕上げとして、ポーランドなどがNATOに加盟し、アメリカの軍事力の傘の中に入りつつある。 つい10年前まで、東欧を軍事的に支配していたロシアとしては、こうした動きに何か対抗策を打ちたいところである。そんな中でロシア軍がポーランド国境まで進軍することは、ロシアにとって大いなる反撃となるわけだ。またベラルーシ自体、ヨーロッパとロシア、バルト三国との間に位置する要衝にある。第二次大戦中は、ドイツ軍とソ連軍がこの地で激突し、住民の4分の1が戦禍に巻き込まれて死んでいる。 東欧諸国やバルト三国は、ロシアとベラルーシの統合に警戒感を抱いている。アメリカ政府には、チェコスロバキア育ちのオルブライト国務長官など、東欧出身者が高官の中にいることもあり、東欧をめぐる陣取り合戦には負けるわけにはいかない。 アメリカは、ロシアとベラルーシの統合に、表向き中立の立場を取っているが、今後構想が具体化していけば、IMFの対ロシア追加融資の「ウラ条件」として、ベラルーシとの統合を思いとどまるよう求めるかもしれない。 事実、ベラルーシは1994年にルカシェンコ政権が誕生して以来、ずっとロシアとの統合を望んでいたが、ロシアはアメリカなどから金を借りて国を運営せねばならない状態が続いていたため、これまでずっと、ベラルーシからのラブコールに応えていなかった。 ロシア側の態度が変化したのは、昨年8月に金融が破綻し、当時のチュバイス首相らアメリカ寄りの「改革派」が政権を去り、代わりに民族主義傾向が強いプリマコフ氏が首相になったからであった。プリマコフ氏は以前、外務大臣を務めていたとき、すでにベラルーシとの統合を推進する立場を表明している。12月のエリツィン・ルカシェンコ会談は、プリマコフ首相のお膳立てにより、実現したと考えられている。 ●ロシア大統領になりたいベラルーシ大統領 両国の統合構想のウラには、2000年に予定されているロシアの大統領選挙をめぐる問題もある。構想には、両国の政府や議会を統合するとともに、両国の国民が相手国の国政選挙に立候補できるという案も含まれている。2000年のロシア大統領選挙には、ベラルーシ人も立候補できることになる。 そして、それが実現した場合、最もうれしいのはルカシェンコ氏本人だろう。カリスマ性のある彼は、ベラルーシの何倍もの広さを持つロシアの大統領になることを夢見ているのである。政治統合を急ぐのは、2000年の選挙に間に合わせねばならないからだともいえる。 こうしたことから、「ソ連邦の再生」という栄光の復活につながる両国の統合を喜ぶべきロシア共産党系の勢力の中には、ルカシェンコに漁夫の利を取られてはたまらないと考え、統合に対して慎重な姿勢を取っている政治家もいる。ロシアには、経済的に破綻しているベラルーシの面倒をみることはできない、との声もある。 また、自治権限のある共和国が国内にいくつもあるロシアにとっては、別の心配もある。ベラルーシがロシア内部に入ってくれば、他の共和国よりも高く、ロシアと対等に近い地位を占めることになる。だがそうなると、独立意識の強い他の共和国の中には、ベラルーシと同じ地位を求め出すところが出てくる可能性が高い。 タタルスタン共和国のシャイミエフ大統領は、ベラルーシとロシアの統合について、歓迎すると述べた上で、「わが共和国もぜひ、両国と同じ立場で、この同盟に参加したい」と表明したという。ロシアでは、厳しい政争も小話になってしまう世界なのである。
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