中国、ねずみ講の破綻で暴動

98年4月30日  田中 宇


 人々の間で「金持ちになりたい」という欲求が強い中国では、「手早く金もうけができる」という宣伝で、各種の「ねずみ講」が人気を集めていた。商品を友達や親戚に売れば、高額のマージンがもらえる、というシステムだったが、最近、中国政府はこうした商法を禁止した。

 この影響で、大手のねずみ講の本社がいくつもある湖南省では、私財をはたいてねずみ講の会員となった人々が、12万人とも30万人とも伝えられる規模で全国から集まり、「金返せ」の大合唱となった。

 すでにねずみ講の多くは会社を閉鎖し、幹部や社員の多くは行方をくらましているが、中には逃げ遅れた幹部もいて、10人が死亡した。一部の人々は暴徒と化し、駐車してあった自動車をひっくり返したり、商店を襲ったりした。

 中国のテレビは、毎日のようにこのニュースを放映しているという。「ねずみ講にはかかわるな」という、中国政府のメッセージが込められているように見える。1996年の調査ですでに、中国全土で合計1000万人以上の人々が、合法・違法のねずみ講にかかわっていると概算されている。

 よくニュースで取り上げられるのは湖南省の張家界市にある「興田」(シンティエン)という健康器具販売会社。600元(約1万円)で市販されている健康器具を、3900元(6万円強)で会員に卸していた。興田は新興宗教系の組織だった、と報じられている。(中国では数年前から各種の新興宗教が勃興している)

 中国は、禁止した「ねずみ講」の範囲の中に、アムウェイ、エイボン・プロダクツ、メアリー・ケー化粧品といった、アメリカの無店舗販売企業も含めている。これにはアメリカ政府が「WTOの自由貿易の原則に反している」と反発している。

 アムウェイは、消費者が商品を開封し、一部使用した後でも全額返金に応じるシステムをとっているが、中国の上海では昨年、アムウェイの化粧水を大量に買い込み、開封して化粧水の一部をほかのビンに移し替えた後、返品して全額返してもらい、新しいビンに入れた方を売って儲ける、という消費者サイドのやり口が新聞で話題になっていた。

 中国は、売る方も買う方も、なかなかしたたかな人々がいる国である。

 
田中 宇

 





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