電気のコンセントからインターネットにつなげる?97年10月15日 田中 宇 | |
「家庭でインターネットをするときに、もう電話料金を払う必要はありません。電力会社に使い放題の固定料金を払って、あとはモデムの回線を電気のコンセントにつなぐだけ・・・」 カナダの通信機メーカー、ノーザンテレコムと、イギリスの電力ガス会社、ユナイテッド・ユーティリティーズ傘下の企業、ノーウェブ・コミュニケーションズは10月8日、そんな新技術を発表した。 家庭からインターネットにつなぐのに、現在は電話回線-接続プロバイダという順につないでいるが、これを電力線に置き換えることを可能にする技術だ。転送速度は毎秒1メガバイトと、ISDNの10倍である。 ●来年中にイギリスで実用化 2社はすでに関連特許を申請中で、来年中にまずイギリスで実用化し、その後、電話料金が比較的高いヨーロッパとアジア地域でこの技術を広める方針。すでに世界各地の電力会社などから、問い合わせが相次いでいるという。 2社が開発した仕組みは、インターネットからの信号を"Multilayered proprietary protocol"という独自の信号体系に変更(エンコード)した上で、その信号を電柱の上などにある変圧器のところで電力線と合流させ、家庭内のメーターまで流すもの。 家庭内のメーター脇に置いた独自の分離器で、電気とインターネット信号を分けた上、信号を元に戻し(デコード)、テレビのアンテナ用フィーダ線のようなコードで、パソコンの後ろまで導く。パソコンには、モデムに代わる独自のカードを差し込んでおき、フィーダ線をカードのソケットに差し込めば、インターネットができるという仕組みだ。 今のところ、電柱上の変圧器から向こうは、電力会社が光ファイバーケーブルを使って、インターネットまでつなぐ必要がある。 ●電気が発するノイズとの戦い 従来、電力線にインターネットなどの信号を通そうにも、電気から発生するノイズのため、信号を通せなかった。2社は、ノイズの影響を受けない独自の信号体系に変換することで、この障害をクリアした。 2社はこの信号体系の詳細について明らかにしていないが、問題は、ノイズの影響を受けずに、どのくらいの長さの区間まで信号を流せるか、ということと、どのくらい高い電圧の電力線にまで信号を流せるか、ということのようだ。 現段階までの実験では、イギリスで10世帯に1個ずつ置かれている変圧器から家庭までの区間しか、このシステムを利用できず、残りの区間は光ファイバーにせざるを得ない。来年中には技術改良し、2000世帯に1個ずつ置かれている、より高い電圧から降圧する変圧器のところまで、電気と信号をいっしょに流せるようにする、という。 さらに現在は、電力にデジタル信号を混ぜると、家庭用電化製品の作動に思わぬ悪影響を及ぼすおそれがあるため、電力線が家庭に入るところのメーターまでしか信号を混合させておけず、そこで信号を分離せねばならない。 だが3-4年後には、電化製品に悪影響を与えるおそれのない信号体系を開発する計画だ。そうなると文字どおり、コンセントに差し込めばインターネットができるようになる。 ただし、これらの予定は2社が発表したことに基づく予想であり、このまま実現するとは限らない。 ●専用カードは4万円以下に インターネットは、多くの人が利用する商業ビルなどには、光ファイバーを使って大容量でつなげるが、各家庭まで光ファイバーを引くのはコストがかかりすぎて実現が難しい。電力線を使ったデータ伝送は、この問題を解決する画期的な方法といえる。 先進各国の他の電力会社も、同様の研究に取り組んできたが、1990年という、比較的早い時期から研究を始めたノーウェブ社が、初めて実用化を発表することになった。 発表によると、このシステムの導入にかかるコストは、電力会社側が、変圧器の横につけるエンコーダーが1万ポンド(約200万円)以下、ユーザー側はパソコンに取り付けるカードが200ポンド(約4万円)以下になる見通し。 ユーザーはこのほか、家庭のメーターの横につけるデコーダーのレンタル料金と、電力会社へのサービス料を払えば、24時間使い放題でインターネットに接続できる。今のように、接続プロバイダに金を払う必要もなくなる。 ●電話会社と接続プロバイダにとっては悪夢・・・ 2社はこの技術の国際的な売り込み先として、ヨーロッパとアジアを重視している。というのは、日本のインターネットユーザーは骨身に染みていらっしゃると思うが、日本をはじめとするアジアとヨーロッパでは、電話料金がアメリカなどと比べて非常に高いからだ。 たとえばアメリカでは、家庭からかける市内電話は、基本料金だけでかけ放題なので、アメリカ人は一ヶ月に20-50ドル程度しかインターネットにかける必要がない。だが日本ではすぐに1万円を超えてしまう。 日本の電力会社がノーウェブ社のシステムを大々的に事業化すれば、日本のインターネット利用は爆発的に伸びるであろう。ただし、わがマイクロソフト ネットワークなど、接続プロバイダにとっては悪夢なのだろうが・・・ 韓国ではすでに、韓国電力公社が、この技術の導入を検討することを明らかにしている。とはいえ日本では、官僚と業界が一体となった規制が非常に強いので、電話会社からの圧力で政府が電力会社に対して、このシステムの導入を「自粛」するよう行政指導するかもしれない(もちろん、電気製品に悪影響を与えるといった表向きの理由をつけて)。 ●インターネットテレビ普及の可能性 もし、この手のシステムが世界的に普及したら、どうなるだろう。低料金のほかに注目すべきは、その転送速度の速さである。1Mbpsなら、今よりずっと大きな動画をリアルタイムで送れる。ということは、インターネットを使ったテレビの可能性が急拡大するということだ。オンデマンド型の放送が可能になる。 インターネット電話も便利になるだろうから、電話会社を困らせることになる。リアルタイムの動画を送れるということは、テレビ電話が普及する可能性もある。インターネット上流の容量が足りなくなるおそれもあるのだが。 また、開発が進んでいるネットワークコンピューターにとってもプラスだ。不安定な電話線を経由せずにすむため、インターネット接続が簡単になり、家庭内バンキングなど、インターネットを使った商取引が活発になる。その分、ハッカーやマネーロンダリングも盛んになるだろう。 そして、筆者個人からみると、インターネットのコンテンツサービスを使う人が急増することになる。当サイトのアクセス者数も増えるということだ・・・。ホンマかいなと思いつつ、夢がバラ色のうちに、この記事をしめくくろう。 この記事は、ノーウェブ社の発表後、イギリスの新聞のウェブサイトに出た記事など、10数件の情報を元に書いた。
関連サイト
Nortel, Norweb unvail Internet access breakthrough
この新技術に関する発表資料(英語)
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